アトキンズ著の翻訳本「エントロピーと秩序」の中に、「熱は、エネルギーの形態ではなく、エネルギーを移動させる方法の名称である」と書かれている。
なるほどそうかもしれないと思ったが違和感を持つ。
インターネットで入手できる名古屋大学の上羽牧夫氏による「統計物理学Ⅰ」には、物理学で扱う変数を次のように示量状態変数と示強状態変数に分類している。
示量状態変数 例:体積、エネルギー、量子数、質量、エントロピー
示強状態変数 例:温度、圧力、密度、誘電率
上記については別の視点から分類したい。
そこで、上記の変数を物理的に観測して測定可能な対象を明示変数とし、測定できる物理量から誘導できる対象を誘導変数としよう。明示変数を可観測変数とすれば、誘導変数は非可観測変数、又は推量変数と考えてもよい。
この分類による変数の例を次に示す。
明示変数 例:体積 V、圧力 P、温度 T、電圧 v、電流 i
誘導変数 例:エネルギー、エントロピー、密度、誘電率
誘導変数としたエネルギーは、運動エネルギー、熱エネルギー、電気エネルギー等があり、現代までの技術革新のおかげで相互に変換可能である。
ここで熱エネルギーの変数を記号Q、運動エネルギーの変数を記号Wと表示する。電気エネルギーの変数は記号Eとする。ここでは電気エネルギーに関して直接扱わないが説明のために引用する。
理想気体は体積の増減が仕事をすることから運動エネルギーWと見なすと、明示変数の圧力Pと体積Vの積として
W=P・V
と表示できる。電気エネルギーEも明示変数の電圧vと電流iの積として
E=v・i
と表示できる。理想気体の運動エネルギーと電気エネルギーとの視点をもとに熱エネルギーを見直してみよう。これまでのところ熱エネルギーは
Q=nR・T
と気体定数nRと温度の明示変数Tの積で表示されている。nRは変数ではないことに注意しておく。
エネルギーが伝搬する状態を分析してみよう。
理想気体の運動エネルギーWは、明示変数圧力Pの大きさの指示に従って体積Vが運動エネルギーの移動にかかわる。
電気エネルギーEについても、明示変数電圧vの大きさの指示にしたがって電流iが電気エネルギーの移動にかかわる。
熱エネルギーについてはどうか。
Q=nR・T
において明示変数の温度Tは、熱エネルギーの移動を指示する大きさである。しかしながらnRは変数ではない。したがって温度Tによって移動する熱エネルギー量は定まってしまう。
アトキンズが温度を「エネルギーを移動させる方法の名称である」という表現に違和感を持ったのは、「熱エネルギーを移動させるための大きさを指示する」と表現した方がいいと思ったからである。翻訳なので原典はそのように記述されているかもしれない。
エネルギーを移動する大きさを指示する表示変数の圧力P、電圧v、温度Tのいずれもエネルギーの移動先と表示値が同値になれば、エネルギーの移動は停止する。熱力学では、平衡状態として第0法則としている。
エネルギーには共通して保存則がある。前述のように Q=nR・T は、移動するエネルギー量が定まっていることを意味している。左辺の熱エネルギー量が変動したてとてもTが一定ならば右辺の値は変動しない。熱力学では環境温度として一定な温度Tの元に現象を扱うことがある。左辺の変動は環境温度として一定ならば右辺に影響がない。つまり理想気体での等温変化は左辺のエネルギー変化に応答しないことを意味する。
そこで定数nRの代わりに、誘導変数であるエントロピーSを導入して「誘導変数のエントロピーSは、表示変数である温度Tの大きさの指示に従って熱エネルギーの移動をおこなう」と解釈する。エントロピーは明示変数ではないので非可観測である。
理想気体のエネルギーの状態式は、表示変数P、V、Tと誘導変数Sをもちいて
W=P・V ・・・ 式①-1
Q=S・T ・・・ 式①-2
とする。理想気体の運動エネルギーと熱エネルギーは可逆変換できるとすれば
W=Q
であるから
W=Q=P・V=S・T ・・・ 式②
と表示できる。可逆変換できない場合は、
Q:=W ・・・ 式③
とする。記号:=は、右辺のエネルギーを左辺に等価的に移動することを意味する。その逆は
W:=Q-ΔQ
と記述する。運動エネルギーは、熱エネルギーに変えられるが、熱エネルギーは一部しか運動エネルギーに変えられないことを表現する。
微分演算子dにより式②を微分形式にすると
dQ=P・dV+V・dP=S・dT+T・dS ・・・ 式④
が導かれる。記号Δは、微少な値を表示し、微分演算子dとは異なるとする。微分演算子は、これまでの数学的な積分が可能であることを示す。
式④をもとにすると環境温度が一定、すなわちdT=0とすれば
dQ=P・dV+V・dP=T・dS
である。これからdQ=T・dS によって
dS=dQ/T
となり、かの有名なクラジュウスのエントロピーの積分による定義式
S=∫dQ/T ・・・ 式⑤
が導出される。
以上の解説から解るように、これまでに熱力学で扱われていたクラジュウスが提示したエントロピーはすべて環境温度一定とした条件下の定義であることがいえる。多くの難解な課題が生じた原因ではなかろうか。
ここで導いたエントロピーの定義はクラジュウスの積分表示による式⑤よりも解り易いと思われる。熱力学の今後の解析には、ここで提示した状態式①から④のような表示式を用いることを提案する。
すでにこの手法が存在すれば、コメントとして通知いただきたい。
(応)
なるほどそうかもしれないと思ったが違和感を持つ。
インターネットで入手できる名古屋大学の上羽牧夫氏による「統計物理学Ⅰ」には、物理学で扱う変数を次のように示量状態変数と示強状態変数に分類している。
示量状態変数 例:体積、エネルギー、量子数、質量、エントロピー
示強状態変数 例:温度、圧力、密度、誘電率
上記については別の視点から分類したい。
そこで、上記の変数を物理的に観測して測定可能な対象を明示変数とし、測定できる物理量から誘導できる対象を誘導変数としよう。明示変数を可観測変数とすれば、誘導変数は非可観測変数、又は推量変数と考えてもよい。
この分類による変数の例を次に示す。
明示変数 例:体積 V、圧力 P、温度 T、電圧 v、電流 i
誘導変数 例:エネルギー、エントロピー、密度、誘電率
誘導変数としたエネルギーは、運動エネルギー、熱エネルギー、電気エネルギー等があり、現代までの技術革新のおかげで相互に変換可能である。
ここで熱エネルギーの変数を記号Q、運動エネルギーの変数を記号Wと表示する。電気エネルギーの変数は記号Eとする。ここでは電気エネルギーに関して直接扱わないが説明のために引用する。
理想気体は体積の増減が仕事をすることから運動エネルギーWと見なすと、明示変数の圧力Pと体積Vの積として
W=P・V
と表示できる。電気エネルギーEも明示変数の電圧vと電流iの積として
E=v・i
と表示できる。理想気体の運動エネルギーと電気エネルギーとの視点をもとに熱エネルギーを見直してみよう。これまでのところ熱エネルギーは
Q=nR・T
と気体定数nRと温度の明示変数Tの積で表示されている。nRは変数ではないことに注意しておく。
エネルギーが伝搬する状態を分析してみよう。
理想気体の運動エネルギーWは、明示変数圧力Pの大きさの指示に従って体積Vが運動エネルギーの移動にかかわる。
電気エネルギーEについても、明示変数電圧vの大きさの指示にしたがって電流iが電気エネルギーの移動にかかわる。
熱エネルギーについてはどうか。
Q=nR・T
において明示変数の温度Tは、熱エネルギーの移動を指示する大きさである。しかしながらnRは変数ではない。したがって温度Tによって移動する熱エネルギー量は定まってしまう。
アトキンズが温度を「エネルギーを移動させる方法の名称である」という表現に違和感を持ったのは、「熱エネルギーを移動させるための大きさを指示する」と表現した方がいいと思ったからである。翻訳なので原典はそのように記述されているかもしれない。
エネルギーを移動する大きさを指示する表示変数の圧力P、電圧v、温度Tのいずれもエネルギーの移動先と表示値が同値になれば、エネルギーの移動は停止する。熱力学では、平衡状態として第0法則としている。
エネルギーには共通して保存則がある。前述のように Q=nR・T は、移動するエネルギー量が定まっていることを意味している。左辺の熱エネルギー量が変動したてとてもTが一定ならば右辺の値は変動しない。熱力学では環境温度として一定な温度Tの元に現象を扱うことがある。左辺の変動は環境温度として一定ならば右辺に影響がない。つまり理想気体での等温変化は左辺のエネルギー変化に応答しないことを意味する。
そこで定数nRの代わりに、誘導変数であるエントロピーSを導入して「誘導変数のエントロピーSは、表示変数である温度Tの大きさの指示に従って熱エネルギーの移動をおこなう」と解釈する。エントロピーは明示変数ではないので非可観測である。
理想気体のエネルギーの状態式は、表示変数P、V、Tと誘導変数Sをもちいて
W=P・V ・・・ 式①-1
Q=S・T ・・・ 式①-2
とする。理想気体の運動エネルギーと熱エネルギーは可逆変換できるとすれば
W=Q
であるから
W=Q=P・V=S・T ・・・ 式②
と表示できる。可逆変換できない場合は、
Q:=W ・・・ 式③
とする。記号:=は、右辺のエネルギーを左辺に等価的に移動することを意味する。その逆は
W:=Q-ΔQ
と記述する。運動エネルギーは、熱エネルギーに変えられるが、熱エネルギーは一部しか運動エネルギーに変えられないことを表現する。
微分演算子dにより式②を微分形式にすると
dQ=P・dV+V・dP=S・dT+T・dS ・・・ 式④
が導かれる。記号Δは、微少な値を表示し、微分演算子dとは異なるとする。微分演算子は、これまでの数学的な積分が可能であることを示す。
式④をもとにすると環境温度が一定、すなわちdT=0とすれば
dQ=P・dV+V・dP=T・dS
である。これからdQ=T・dS によって
dS=dQ/T
となり、かの有名なクラジュウスのエントロピーの積分による定義式
S=∫dQ/T ・・・ 式⑤
が導出される。
以上の解説から解るように、これまでに熱力学で扱われていたクラジュウスが提示したエントロピーはすべて環境温度一定とした条件下の定義であることがいえる。多くの難解な課題が生じた原因ではなかろうか。
ここで導いたエントロピーの定義はクラジュウスの積分表示による式⑤よりも解り易いと思われる。熱力学の今後の解析には、ここで提示した状態式①から④のような表示式を用いることを提案する。
すでにこの手法が存在すれば、コメントとして通知いただきたい。
(応)