炉端での話題

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エントロピーとは(7) -フーリェによる熱伝搬方程式-

2013-09-16 11:42:06 | Weblog

 前回はニュートンの冷却法則を引用し、熱学において時間要素を扱う歴史的な側面を述べた。今回はこれに引き続いてフーリェ(1768-1830)が提唱した熱伝搬について記述しておくことにする。

 数学的な記号を用いることは、できる限り避けたいが、つたない解説を加えることを許していただくとして、方程式を扱うことにする。 

 まずは、ニュートンの冷却法則の式を基にして

 dQ/dt +divJ=0        (1)

を与える。ここでQは熱量でdは微分演算子、dtは微少時間でありJは3次元空間での熱流である。divは、拡散する事象を表す微分演算子であって

 divJ= δJx/δx +δJy/δy +δJz/δz

で定義される。ここでδは偏微分演算子であり、例としてδJx/δx は熱流Jのx軸成分における変化分を示している。この方程式の意味は、3次元空間における熱量Qの時間的な変化分は、3次元空間での熱流に等しいことを表している。

 ここで温度Tとの関係は、前回の(3)式に示したように

 dQ/dt=CdT/dt           (2)

である。ここでCは熱容量である。

 熱流Jは、温度Tの微少な差分、すなわち微少区間の傾きの程度に比例するから

 J=-h・gradT           (3)

で与えられる。ここでhは傾きの程度による定数係数であり、gradTは各3次元空間での温度Tの傾きとして

 gradT=i・T/δx + j・T/δy + k・T/δz

である。ここでi、j、kは、3次元空間のx軸、y軸、z軸の単位ベクトルであり、上記の(3)式は、熱流Jをベクトルとして表している。従って熱流は、温度の傾きによつて流れるベクトルとして表す方向性を考える。

以上の(1)(2)(3)式から

 dT/dt=dQ/dt/C=-divJ/C =h・div(gradT)/C   (4)

が得られる。

 ここで

div(gradT)=δT/δx +δT/δy +δT/δz

である。

この(4)式が、ラプラースが与えた熱伝導に関わる時間要素を考慮した温度変化を示す方程式である。

1811年にフランス科学院が提起した「熱伝導の数学的表現」の課題に応募した解であったと伝えられている。

 この熱伝導を与える方程式に関してはおおくのエピソードがある。この微分方程式の一般解はどうなるのかという多くの質問が寄せられたという。コンピュータがある今日では、数値計算法により容易に解析できるが、数式による一般解を求めることなど、当時は困難であった。フーリェは、一般解をもとめるために三角関数によって解析する手法を用いた。任意の関数が三角関数で表現できるという画期的な成果であった。

 このフーリェがもたらし、フーリェ級数展開と一般的に呼んでいる解析手法は、現代科学の発展に貢献している。その原典となったフーリェの熱伝導の方程式は、いま巨大なエントロピーという殿堂の影に隠れてしまっている。影に隠れて全く姿を現すことはない。熱学、あるいは熱力学の片隅にも表われない。ただし、熱学の歴史書には残されている。

 何故であろうか。

 フーリェの熱伝導方程式は、熱伝導率、熱容量が均質な固体であれば、比較的容易に解が得られるであろう。しかし流動性がある気体とか流体では、熱エネルギーの移動と共に対流がおこり、熱伝導の方程式をそのまま適用できない。熱容量、熱伝導率も微妙に変化する。さらに固体から液体、液体から気体等の相変化が起きるときに熱量は非連続的に変化する。

  今の時代、コンピュータを駆使すれば、複雑に変化する熱容量、熱境界、熱伝導率、形状、対流事象などを入れて解析が可能となっている。今から200年前に提起されたフーリェの熱伝導の方程式、現在はコンピュータによる熱の解析に使われていることは想像できる。  このように熱学の歴史をひもといていくと、エントロピーの理論体系は、現実の熱学の現実の課題の解法として利用されているかどうか疑問はさらにつのる。 (応) <