今日は美味しいところで、のんびりしながら話をしましょう。
そう言われて、訪ねて行ったのは、イスタンブール市街地からは20分ほどのところにあるテニスクラブ。
「ここかあ?おい、F間違いない?」
「たーさん、ここだよ。指定の場所は。有名なテニスクラブだ。普通は入れないぜ。」
助手席で同行のトルコ人、Fが呟く。
D氏から借り出したBMWを運転してはいるものの、ここに至るまでの坂道が急すぎて、マニュアルシフトでは結構運転するのが難しい。
辿り着いたのは、古びたクラブハウスだが、お誘いを受けた人物の名前を言うと、黙ってコートを預かってくれて、席まで案内してくれる。
席にはワインを飲みつつ待っていたE氏。
「やあ、たーさんお呼びだてして申し訳ない。お、Fも来てくれたのか?」
「や、すいませんEさん、不案内なもんで、彼について来てもらったんですよ。」
「Dさんは元気なのか?」
「ええ、元気でやってますよ。今はフランスに行ってます。」
彼Fは僕の尊敬するD氏の使用人なのだ。今日会うE氏は曲者なので、用心のためにD氏がつけてくれた。
本来は、イスラム系のディストリビューターとそうでないグループが厳然と分かれているトルコだけれど、E氏はその両方にパイプをもつ、ベネチア系移民の名士なのだ。
よくわからない、イスラムの世界とのパイプを作るために、彼に骨折りを頼んでいたのだが、その回答をもらえることを期待して今日ここに来ている。
クラブハウスで食事をしているのは、僕らのグループと、まったく裕福な暮らしをしているらしい初老の紳士とその奥様と思しき女性、それに紳士の友人らしき2人が一緒にいるグループの2組だけ。
「さ、まずは乾杯しよう。トルコは何度目になりました?」
「かれこれ、7回目くらいですかねえ。」
「たーさんのトルコ外交に乾杯しましょう。」
「皆さんの健康に。」
「乾杯。」
さすがにいいシャンペンが置いてあるもんだ。思わず、全部飲んでしまった。
「さて、食事はゆっくりするとして、たーさん、この間の返事だが・・・。」
「その件だと思いました。」
「たーさん、こちらへ。」
「???」
連れて行かれたのは、もう一組のグループが座っているソファテーブル。
「たーさん、こちらは○○○○グループのオーナー一族の○○氏、それと、こちらのお二人は政府の○○担当の
○さんと○○さんだ。」
「えっ!?」
「初めまして、たーさんです。この度はいろいろ無理をお願いしています。」
「いや、Eさんから話は聞いていますよ。今度ゆっくり海沿いで食事でもしましょう。Eさん、挨拶はこれで済んだ。お先に失礼するよ。」
「ありがとうございます。」
さっと立ち上がると、会釈をしながら引き上げていく、4人組。
僕がもっとも会いたかった人物達と、このテニスクラブで引き合わせてくれたわけだ。
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