93歳のご高齢ながら、旺盛な文筆・評論活動を続けるキ-ンさんの最新作は、27歳で早逝した天才歌人「啄木」の本格的評伝である。「新潮」2014年6月~12月、2015年2月~10月連載、366頁の大作。
「膨大な資料と作品を丹念に読み解き、啄木の壮烈な生涯を詳細に解明した著者渾身の傑作評伝」なのだが、読み進めるのがとてもつらかった。
天才という存在は、何故、あのように金に疎く且つ、周囲の好意や援助を無為にしてしまうのか。
結果、陥る貧困・病苦と家庭崩壊。まさに、モーツアルトの生涯を地で行くような結末は、何ともやるせない。
蛇足:啄木を偲んで、歌集「一握の砂」から数首を・・・。
・東海の 小島の磯の 白砂に われ泣きぬれて 蟹とたはむる
・砂山の 砂に腹這い 初恋の いたみを遠く おもひ出づる日
・いのちなき 砂のかなしさよ さらさらと 握れば指の あひだより落つ
・たはむれに 母を背負いて そのあまり 軽き(かろき)に泣きて 三歩あゆまず
・やわらかに 柳あをめる 北上の 岸辺目に見ゆ 泣けとごとくに
・ふるさとの 山に向ひて 言ふことなし ふるさとの山は ありがたきかな