「当世源氏物語」(谷崎潤一郎訳 源氏物語風)
別離
「住まいのイシダ」様にお伺いした時のことでございます。私が作業している横に女官のF井が近づいて来て、おもむろに「しんぐ様、わたくし来週で退官致しまする」と申しました。F井はこれまでも何度も辞める辞めると申しては、ずるずるとそのままになっておりましたので、わたくしも「またですか」とあまり真剣には聞きませんでした。ところが、「いえ、今度は本当なのです」と何度も繰り返しますので、一応話しだけは聞いてあげようと思いました。
「それはまたなにゆえに?」
「疲れましてございます。ゆっくり休みとぉございます」
「なんと贅沢なことを申される。私もゆっくり休みたいのはやまやまでございます」
そこへ店長の后様が来られました。
「しんぐ様、F井が辞めるそうでございます。この会社はどうなるのでございましょう?」
「申される通りにございます。副社長が辞めては会社が成り立ちませぬ」
F井は「誰が副社長でございますか!そんなに権限は持っておりませぬ」と主張しておりました。そして、
「大丈夫でございます。新しき女官が二人もおりまする。何も心配には及びませぬ」
と余裕の表情をしておりました。
去る人に 次の仕事を 尋ねれば
ゆっくりしたいと ふざけた答え
どうも今度は本当のようでございます。この物語はいかがあいなりますことやら。
「別離」
来週で 去るか源氏の 主人公
蔵
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