【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「カティンの森」:三ノ輪駅前バス停付近の会話

2009-12-30 | ★草63系統(池袋駅~浅草雷門)

あそこに見えるマンションの1階に図書館が入ってるのよ。
よし、行こう、行こう。
何を調べるの?
「カティンの森」の真相に決まってるだろ。
あなたって、ほんと、映画に影響されやすいのね。
だって、巨匠アンジェイ・ワイダが、70年前、自分の父親が惨殺されたカティンの森事件について、ようやく映画化できたんだぜ。俺たちも、襟を正して真実を知る努力をするしかないだろう。
第二次世界大戦でポーランドの将校や指導者たち1万5千人が虐殺された事件。内容は重いけど、アンジェイ・ワイダ監督83歳にしては、信じ難くみずみずしい映画よねえ。
ドイツに追われた民衆とソ連に追われた民衆が橋の上で遭遇する冒頭のシーンからして、これから起きる悲劇の物語をすべて凝縮して一気に映画に引き込む。その力技はどうだ。
西からはナチス・ドイツ、東からはソ連・共産党に攻め込まれて、大国の横暴に翻弄される小国ポーランド。その象徴的なできごとが、カティンの森事件。
この事件、ドイツはソ連が起こしたと言い、ソ連はドイツが起こしたと言う。
戦後、戦勝国ソ連は、もちろんドイツのせいにする。そのソ連の衛星国になったポーランドは、立場上、真相を暴くわけにはいかない。
真相を暴こうとするどころか、ちょっとでもソ連のせいだって暗示しただけで、人々は捕まってしまう。
「ドイツとソ連の支配は千年続く」とか「ポーランドに自由は二度とこない」とか語る人々の言葉が、ものすごく重く響くのよねえ。
カティンの森で処刑された人々はもちろんだけど、残された女性たちに焦点をあてているから、身に迫るものがある。
日本の戦争は1945年で終ったけど、こういうヨーロッパの国々の戦争は、ナチスが滅びても延々と続いているっていうことを改めて思い知らされる。
その魂の叫びを、アンジェイ・ワイダは感情に流されることなく、けれど本当の怒りを持って描くから、画面から目が離せない。
女性たちの苦しみが淡々と描かれたあとに、そういう悲しみをもたらした虐殺の光景がまた丁寧に描かれるから、胸をかきむしられる。
刻一刻と築かれていく遺体の山を、これでもかこれでもかと見せつけられて目をそむけたくなるんだけど、それこそが真実なんだ、目をそむけるな、とアンジェイ・ワイダは信念を持って訴えてくる。
「灰とダイヤモンド」以来、50年間、祖国ポーランドを見つめ続けてきた監督にしか成し遂げられない映画よね。
寒色を基調にした緊張感あふれる画面構成、地に足がついた役者たちの心震える演技、歴史を透徹したまなざし。映画としても、まさしく一級品。
こんなみごとな映画なら、影響されてあたりまえ。
だろ?





この記事、まあまあかなと思ったら、クリックをお願いします。




ふたりが乗ったのは、都バス<草63系統>
池袋駅東口⇒豊島区役所前⇒上池袋一丁目⇒上池袋三丁目⇒上池袋四丁目⇒堀割⇒西巣鴨⇒新庚申塚⇒巣鴨四丁目⇒とげぬき地蔵前⇒巣鴨駅前巣鴨駅南口⇒本駒込六丁目⇒千石一丁目⇒本駒込二丁目⇒白山五丁目⇒東洋大学前⇒白山上⇒駒込千駄木町⇒千駄木一丁目⇒団子坂下⇒千駄木三丁目⇒道灌山下⇒西日暮里駅前⇒西日暮里五丁目⇒西日暮里一丁目⇒荒川四丁目⇒荒川三丁目⇒荒川区役所前⇒荒川一丁目⇒大関横丁⇒三ノ輪駅前⇒竜泉⇒千束⇒西浅草三丁目⇒浅草公園六区⇒浅草一丁目⇒浅草雷門






最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
アンジェイ・ワイダ監督対談 (タニプロ)
2010-05-06 23:17:27
荒井晴彦氏と荒戸源次郎監督が、アンジェイ・ワイダ監督を語ってました。

荒戸さんがオシャレファッションです。

http://www.youtube.com/watch?v=Jx23g5kWaQk
返信する
■タニプロさんへ (ジョー)
2010-05-08 16:51:36
こちらも同じ番組かと思ったら違った内容だったんですね。
おもしろかったです。
返信する