Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

井上道義/読響

2021年09月30日 | 音楽
 井上道義指揮の読響の定期。プログラムは、ゴリホフ(1960‐)のチェロ協奏曲「アズール」、ストラヴィンスキーの管楽器のための交響曲、ショスタコーヴィチの交響曲第9番。通り一辺倒ではなく、尖がったプログラムだ。じつはこれは、当初はイスラエルの指揮者イラン・ヴォルコフのために組まれたものだ。ヴォルコフが来日中止になったため、井上道義が引き継いだ(曲順はストラヴィンスキーとゴリホフを入れ替えた)。経緯はともかく、いかにも井上道義らしいプログラムだ。

 ゴリホフは2014年に日生劇場で、スペインの詩人ガルシア・ロルカをテーマにしたオペラ「アイナダマール」が上演されたので、わたしにも馴染みの作曲家になった。当時ゴリホフの他の作品も聴いてみた。その中では「マルコ受難曲」に仰天した。2000年のバッハ没後250年を記念して国際バッハ・アカデミーが4人の作曲家(ゴリホフ、グバイドゥーリナ、リーム、タン・ドゥン)に委嘱した受難曲のひとつだが、ゴリホフのその曲は、他の作曲家とはちがって、現代音楽の文脈から離れた、ラテン音楽だ。わたしは生気にあふれたその音楽に魅了された。

 「アズール」は仕掛けが満載の曲だと、実演を聴いて(実演を見て)わかった。まず独奏楽器だが、チェロ協奏曲なので、チェロが独奏楽器だが(演奏は宮田大)、それ以外にアコーディオンとパーカッション2人も独奏楽器に準じる。これらの4人が指揮者の前に並ぶ。

 次にオーケストラだが、弦楽器が2群に分かれ、指揮者の左右に並ぶ。しかも注目すべきことには、手前から奥に、ヴィオラ、第2ヴァイオリン、第1ヴァイオリン、チェロの順だ。たしかに各楽器の動きを追うと、ヴィオラがもっとも積極的なようだ。コントラバスは中央の奥に並ぶ。木管楽器と金管楽器は左手の奥。打楽器、ハープ、チェレスタとソロ・ホルンは右手の奥。以上、想像してみてほしい。きわめて独創的な配置だ。

 大編成のオーケストラなので、独奏チェロなどにはPAが使われる。多少人工的だが、音像が大きく浮き上がる。音楽は色彩的で、甘く、親しみやすい。衝撃的なのは、たぶん第3楽章「推移」の部分だと思うが、独奏楽器群の4人がジャム・セッションを繰り広げることだ。のりにのった演奏だった。この部分はプログラム・ノートには「独奏チェロのアルペッジョが延々と続く」(柴辻純子氏)とあるが……。

 ストラヴィンスキーの管楽器のための交響曲とショスタコーヴィチの交響曲第9番は、一言でいって、洗練された演奏だった。井上道義は独りよがりに走りださず、客観性を保ち、読響の高度なアンサンブルがそれを支えた。
(2021.9.29.サントリーホール)

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