Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ヴァイグレ/読響

2024年10月10日 | 音楽
 読響がヴァイグレの指揮で10月13日~24日までドイツとイギリスへ演奏旅行に行く。昨夜の定期演奏会ではそのプログラムのひとつが披露された。

 1曲目は伊福部昭の舞踊曲「サロメ」から「7つのヴェールの踊り」。中近東風のエキゾチックな音楽と伊福部昭流の土俗的なリズムが交互に現れる曲だ。ドイツやイギリスの聴衆には未知の日本人版の「7つのヴェールの踊り」として話題になるかもしれない。演奏はヴァイグレ/読響らしくがっしり構築したもの。最後の熱狂的な盛り上がりはさすがに迫力があった。

 2曲目はブラームスのヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏はクリスティアン・テツラフ。もう何百回も(?)弾いているだろうこの曲を、テツラフはまるで名優の語りのように雄弁に演奏した。音楽の中に入り込み、その音楽を生きるような演奏だ。リズムの正確さとか拍節感とか、そんなレベルを超えたテツラフ流の演奏だ。音は細いが、その細い音に異様なまでの熱がこもる。

 それに対するヴァイグレ/読響の演奏は、(悪い意味ではなく)ごつごつと角張った、最近では珍しいくらいにドイツ的な演奏だ。テツラフの自由なヴァイオリン独奏と、一言半句もゆるがせにしないヴァイグレ/読響の演奏と、そのコントラストが際立った。

 テツラフはアンコールにバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番から「ラルゴ」を演奏した。澄みきった音のバッハだ。ブラームスのヴァイオリン協奏曲でヴァイオリン独奏に渦巻いた熱を冷ますような演奏だった。

 3曲目はラフマニノフの交響曲第2番。これも大変な熱量の演奏だった。甘美な音から重厚な音まで駆使して、歌うべきところはたっぷり歌い、盛り上げるところは劇的に盛り上げる。けっして流麗な演奏ではない。むしろ粗削りな部分を残す。言い換えれば、仕上げの良さよりも音楽の熱量の解放を重視した演奏だ。ヴァイグレが感じているこの曲は途方もなく大きいのではなかろうかと思う。

 正直にいうと、わたしはヴァイグレのことがいまひとつ掴めない。たとえば2021年1月に演奏したヒンデミットの「画家マティス」は、角を取った丸みのある音で滑らかに流れる演奏だった。わたしはそのとき、ヴァイグレはドイツの指揮者だが、かつてのドイツの指揮者とはタイプが違うのかと思った(当時ある音楽ライターは「オーガニック」と評した)。だが今回の演奏を聴くと、現代のドイツの指揮者のだれよりも、かつてのドイツ流の演奏スタイルを保持している。ヴァイグレはそこに落ち着くのだろうか。
(2024.10.9.サントリーホール)
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