Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

テンペスト

2012年12月13日 | 音楽
 METライブビューイングでトーマス・アデス(1971‐)のオペラ「テンペスト」を観た。

 このオペラには縁があって、2004年初演時のライヴ録音のCDを持っているし(作曲者自身の指揮、ロンドンのロイヤル・オペラで初演)、2010年のフランクフルト歌劇場での公演を観に行くことができた。フランクフルトではヨハネス・デビュスの指揮(東京で細川俊夫のオペラ「班女」を指揮した人だ)、キース・ウォーナーの演出だった。

 そして今度のメトロポリタン歌劇場での公演。演奏面ではこれが一番ではないかと思った。歌手も、オーケストラも、きわめて高水準だ。2004年の初演以来、世界各地で上演されている人気作なので、演奏が磨かれたこともあるだろうが、やはりメトロポリタン歌劇場の底力だと思った。

 追放されたミラノ大公プロスペローはサイモン・キーンリーサイド。初演時も同役だった。今やこの役を手中に収めているようだ。幕間のインタビューに答えて、最初に譜面を見たときには「パニックだった」といって笑わせた。たしかにそうだろう。小節ごとに拍子が変わるし、リズムも音程も取りにくい。譜面を見たら面食らうだろう。

 妖精アリエルはオードリー・ルーナという若い歌手。初演時とフランクフルト歌劇場ではシンディア・ジーデンだった。高音域を跳び回るこの役をいつまでも歌い続けることは困難だろう。驚いたことには、ルーナはジーデンのさらに先を行っていた。歌唱は進歩するものだと実感した。

 他の歌手のことにも触れたいが、ライブビューイングを観ていないかたには煩瑣なだけで、あまり意味がないだろう。ともかく、どの歌手もよかった。

 指揮はトーマス・アデスその人。指揮の技術は折り紙つきだ。オーケストラもさすがに優秀だった。なお、アデスも幕間のインタビューに応じていた。ちょっとはにかんだような表情が印象的だった。自己主張が強い欧米人にあっては珍しいタイプだ。

 演出はロベール・ルパージュ。プロスペローが魔法を駆使する絶海の孤島をミラノのスカラ座に見立てた演出。幕切れにすべての人々が去って、一人取り残された怪物(というよりも、わたしには先住民のように見えるのだが)カリバンが、呆然と、空になった舞台を見つめる。その姿がわたし自身に重なって見えた。今までオペラを観ていたわたしは、カリバンだったのか。
(2012.12.12.東劇)

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