Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

アラン・ギルバート/都響

2019年12月17日 | 音楽
 アラン・ギルバートが都響を指揮したマーラーの交響曲第6番「悲劇的」は、きわめて密度の濃い演奏だった。演奏時間約80分を息つく暇もなく聴かせ、しかも聴き終わったときに疲れを感じさせなかった。それほどまでに濃密で、大きな起伏を描き、ドラマを雄弁に語る演奏だった。とりわけ第一ヴァイオリンの熱量のある音は際立っていた。その音は都響としても見事な出来だが、在京オーケストラの中でも独自の個性を示した。

 今回のアラン・ギルバートの客演指揮は、先日のリスト(ジョン・アダムズ編曲)、バルトーク、トーマス・アデスおよびハイドンのプログラムと合わせて、見事な成果を挙げ、アラン・ギルバートと都響の一体感がまた一つ上のステージに上ったことを感じさせた。

 マーラーの交響曲第6番では、第2楽章と第3楽章はアンダンテ・モデラート→スケルツォの順で演奏された(この点については後で触れる)。また第4楽章のハンマーは3回叩かれた。その3回目は、「あっ、ここだな」と思った箇所では3人のシンバルが鳴らされ、その後のエネルギーが減衰する箇所で力なく叩かれた。

 それにしても、これはなんという交響曲だろうと思った。たとえていえば、4章からなる長編小説のような音楽だ。しかもその構成が変わっている。音楽はもちろん、小説でも類例を見ない構成だ。

 第1章は「死の行進」(第1主題)と「愛のテーマ」(第2主題)という二つのテーマが絡み合って進む。その合間に「ファンファーレ」と「カウベル」という二つのエピソードが挟まる。第2章では第1章とは無関係なストーリーが進む。その途中に「カウベル」のエピソードが顔を出して、第1章との関連を確保する。

 第3章では「死の行進」のテーマがパロディのように変形されて進む。第2章との関連は乏しい。第2章と第3章とは順番が逆になっても問題が生じない。入れ替え可能だ。第4章では既出のすべてのテーマとエピソードがなだれ込み、混乱の坩堝の中でドストエフスキー的な苦悩と闘いのドラマが進行する。

 具体的には、第4章は「ファンファーレ」のエピソードで開始される。直後に「愛のテーマ」の変形のようなテーマが登場する。「死の行進」の変形されたテーマが始まり、主人公の闘いのドラマが語られる。ついに斃れた主人公は、「愛のテーマ」を幻視して力尽きる。弔いの静けさが広がり、「完」の一字が印される。

 以上のように、第4章に圧倒的な比重がかかり、前の3章はそれを準備する異例の構成だ。
(2019.12.16.サントリーホール)

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