Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

平和祈念展示資料館「戦争のおはなし」展

2022年04月16日 | 身辺雑記
 新宿の高層ビル群の一角にある住友ビル。その33階の「平和祈念展示資料館」は、太平洋戦争後のシベリア抑留をテーマにした施設だ。常設展のほかに年に数度の企画展が開かれる。いまは「戦争のおはなし」展が開催中だ。

 過去にはシベリア抑留の記憶を描いた油彩画の展覧会が催されたこともある。今回はマンガ、絵本、紙芝居、カルタの展覧会だ。どれも親しみやすい。チラシ(↑)に「コトバだけでは伝わらない。絵にするとわかってくれた」とある。そうだろうな、と……。

 右上の緑の絵は、川崎忠昭(1932‐79)の「アカシア並木」だ。絵本「おとうさんの絵本 大連のうた」の所収作品。川崎忠昭は大連に生まれ育った。大連はアカシアが美しかった。だが、わが子にそれを語っても、理解してもらえない。そこで絵本にした、と。

 その左隣の白と青の絵は、ちばてつや(1939‐)の「トモちゃんのおへそ」。有名漫画家の作品だけあって、繊細な美しさは別格だ。収容所のお墓の前で、毎日トモちゃんは自分のおへそを見ていた。「おかあさんが死ぬ前にいったの。おかあさんに会いたかったら、おへそを見なさい。きっとおかあさんの顔が見えるでしょうって」。厳冬期のシベリア。窓ガラスが割れ、氷柱がさがった収容所。そっとおへそを見るトモちゃん。

 ちばてつやは敗戦直後、父親の仕事仲間だった中国人にかくまわれ、父親と母親と4人の子どもたちで屋根裏部屋に隠れて暮らした。ちばてつやは長男だった。むずかる弟妹を慰めるためにマンガを描いた。それが漫画家になる原点だった。

 その下の青と白と赤い点々の絵は、斎藤邦雄(1920‐2013)の「シベリアの霊魂よ 故国日本に還れ」。透き通るような紺色の夜空。真っ白い雪原。その上をシベリアで斃れた多くの人々の魂が日本に還る。ひとりだけ方向をまちがえている。仲間が「日本はそっちじゃないよ」と声をかける。

 その下の絵にもふれておこう。岩田シヅ江(1926‐2009)の「引き揚げ船の中で幼児二人を置き去りにしたと語る母親」。引き揚げ船の中でひとりの母親が泣き泣き語る。「子どもに菓子を与えて、ここに座っていなさい。用事をしたら、お母さんが迎えに来るから、と言って置き去りにした」と……。

 チラシの裏面(※)に斎藤邦雄の「シベリア抑留 いろはかるた」が掲載されている。「そ」は「ソ連を恨むウクライナの娘」。強制労働に従事させられているウクライナ娘がスターリンの写真をふみつける。
(2022.4.10.平和祈念展示資料館)

(※)チラシ
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