Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

東京シティ・フィルの12月定期

2009年12月10日 | 音楽
 東京シティ・フィルの12月定期は常任指揮者の飯守泰次郎の指揮で次のようなプログラムが組まれた。
(1)ヴォルフ:イタリアのセレナード
(2)B.ゴルトシュミット:交響的シャコンヌ
(3)R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」

 私は初めにこのプログラムをみて、ゴルトシュミットってだれ?と思った。今は便利な時代になって、インターネットで検索すると、基礎的な情報はあれこれ手に入る――わかったことは、ゴルトシュミットは1903年にハンブルクに生まれたユダヤ人作曲家で、シュレーカーについて学び、32年にオペラ「堂々たるコキュ」が初演されて注目を集めたが、ナチス政権の成立により、35年にイギリスに亡命。
 その後、長らく忘れられていたが、CDの「退廃音楽」シリーズで「堂々たるコキュ」が取り上げられ、92年にはベルリンで演奏会形式によって上演されるなど、一時期ゴルトシュミット・ルネッサンス的な現象が起きたとのこと。96年に亡くなったが、生涯の最後にまさかの復活を遂げた数奇な運命の人。

 私も「堂々たるコキュ」のCDをきいてみたが、実に面白い。エロティックでグロテスク。かりにユダヤ人でなかったとしても、ナチス政権から嫌われたことは間違いない。幕切れのどんでん返しは、ツェムリンスキーのオペラ「フィレンツェの悲劇」を連想させる。

 当夜の「交響的シャコンヌ」は、イギリスに亡命した直後の作品。3楽章からなり、シンフォニエッタ的な感じの曲だが、終楽章の後半で暗転する。ここにはナチスの影が投影されていると思われ、痛々しかった。

 このような曲は、常任指揮者が継続的にそのオーケストラを振っていないと、なかなか取り上げることは難しいだろう。ある一人の指揮者が責任を持ってオーケストラを育成し、また聴衆にさまざまな曲を提供するという、昔ながらの姿が残っていることは、好ましいことだと思った。

 プログラムの前半2曲が、「このような曲もありますよ」という意図だったとすれば、後半の「英雄の生涯」は「私たちの演奏をきいてください」という、現状でのベストを尽くして、その成果を問うものだった。
 冒頭の英雄の主題からして、意欲みなぎる太い豊かな音がして、この指揮者とオーケストラが勝負をかけていることが感じられた。そのいさぎよさは、現状のもろもろの不備を超えて、さわやかな共感をさそった。
(2009.12.09.東京オペラシティ)

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