Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

楽園からの旅人

2013年08月30日 | 映画
 岩波ホールで公開中の映画「楽園からの旅人」。これはぜひ観たいと思って、前々から日程を調整していた。直前に公式ホームページをのぞいたら、音楽はグバイドゥーリナとあった。えっ、思わず息をのんだ。グバイドゥーリナって、あのグバイドゥーリナ? 俄然音楽にたいする興味がわいてきた。

 考えてみれば当然だが、グバイドゥーリナがこの映画のために書き下ろしたわけではなかった。もう高齢なのだから、それは当然だ。実際には既存の曲から断片的にとられていた。それはそうなのだが、さすがはグバイドゥーリナというか、断片ではあっても、はっきり個性を主張していた。一般的な映画音楽とは一線を画していた。

 そのため、困ったこともあった。音楽が始まると、どうしても聴いてしまうのだ。注意が音楽に向いてしまった。感性の繊毛がふるえるような音楽だと思った。じっと聴いていると、映画がおろそかになる危険を感じた。

 久しぶりに聴くグバイドゥーリナだった。映画が終わった後も耳に残った。もう一度聴いてみたくて、翌日の夜、映画のなかで使われている「プロ・エト・コントラ」PRO ET CONTRAを聴いた(ヨハネス・カリツケ指揮ハノーファー北ドイツ放送フィル)。30分あまりのオーケストラ曲だ。実に美しい曲だと思った。グバイドゥーリナのなかでも特別な曲ではないだろうか。ほかのどの曲とも似ていなかった。

 思いがけず音楽にのめり込んでしまったが、肝心の映画もよかった。イタリアの片田舎の話。信者が来なくなって廃止された教会。そこにアフリカからの難民(=不法入国者)が逃れてくる。かれらをかくまう老司祭。そこで起きる出来事がこの映画だ。

 教会のなかは難民キャンプのようになる。旧約聖書の「出エジプト記」を連想させる。身重な女性が出産する。イエスの誕生のようだ。感動した老司祭は神に感謝する。また仲間を売る男がいる。ユダを連想させる。難民たちは立ち去る。新たなイエスの物語が生まれるのだろうか――。

 一言でいって、これは慎ましい映画だ。場面はすべて教会のなかか、司祭館のなかだ。なので、演劇のような感じがする。映画というよりも、演劇を観ているようだ。

 そう思った一因は、教会がヨーロッパの古い石造り、または木造ではなく、無機質で近代的なコンクリート造りだからだ。それが演劇の舞台のように見えた。たぶん意図してのことだろう。
(2013.8.28.岩波ホール)

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