Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

藤岡幸夫/東京シティ・フィル

2015年11月07日 | 音楽
 藤岡幸夫が指揮した東京シティ・フィルの定期。ベートーヴェンとヴォーン・ウィリアムズの2曲の「田園交響曲」という粋なプログラムだ。

 まずベートーヴェンから。多くのかたの興味はヴォーン・ウィリアムズの方にあるのだろうが(もちろんわたしもそうだったが)、ベートーヴェンもよかった。第1楽章から快適なテンポで進んだ。遅くもなく、早くもない。しかもリズムに弾みがある。オーケストラがよく鳴る。嬉しい驚きだった。

 第2楽章は平板だったかもしれない。でも、第3楽章になったら、快適なテンポが戻ってきた。第4楽章の‘嵐’の表現は迫真的だった。黒雲が渦巻き、雷が光る。硬めのマレットで叩くティンパニがすばらしい。第5楽章は喜びを全身で表現する演奏。喜びの奔流に呑まれているうちに、あっという間に終わった。

 自然に感謝するベートーヴェン。その感謝の気持ちがこちらにも乗り移ったのかもしれない。この曲を残してくれたベートーヴェンへの感謝の気持ちが湧いてきた。

 さて、休憩後はヴォーン・ウィリアムズの交響曲第3番「田園交響曲」。第1次世界大戦で亡くなった人々への追悼のための音楽だ。激しい怒りとか、慟哭とか、そんなものは抑えて、美しい自然への静かな観照に追悼の想いをこめた作品だ。

 藤岡幸夫がプレトークで語っていたが、穏やかな音楽だからこそ、穏やかなだけでは、眠りを誘ってしまう。そこが難しい、と。本場イギリスで経験した聴衆の様子に触れながら、飾らないトーク。藤岡幸夫の人柄がうかがえた。

 で、たしかに、大きな抑揚をつけながら、たっぷり鳴らした演奏だった。細かい動きにもよく目配りがされていたと思う。端的にいって、退屈することがなかった。わたしは眠りませんでしたと、藤岡幸夫に伝えたい。そんな冗談をいいたい気持ちになった。

 第4楽章(最終楽章)でソプラノ独唱のヴォカリーズが入る。どこで歌うのだろうと思っていたら、3階の右側の席だった。わたしの席は2階の右側なので、ちょうど頭上から美しい声が降りてきた。使い古された表現だが、ビロードのような声だった。ソプラノ独唱は半田美和子。

 藤岡幸夫は2014年6月の東京シティ・フィルへの客演でもヴォーン・ウィリアムズを取り上げた。そのときは交響曲第5番だった。第5番は比較的聴く機会に恵まれているが、第3番は珍しい。得難い経験になった。
(2015.11.6.東京オペラシティ)

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