Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

白墨の輪

2015年02月10日 | 音楽
 林光のオペラ「白墨の輪」は、いつかは観たいと思っていたオペラだ。やっとその機会が訪れた。

 原作はブレヒトの戯曲「コーカサスの白墨の輪」。ブレヒト、そして林光とくれば、おのずから一定のイメージが湧く。でも、そのイメージとは微妙に異なる味だった。

 結論からいうと、予想よりも熱く、ストレートで、湿り気のある印象を持った。もっと乾いた、シニカルな感覚を予想していたので、意外だった。プログラムに掲載された萩京子氏(主催者のオペラシアターこんにゃく座代表)の巻頭言によると、本作は1978年の初演、林光47歳の作品だ。林光も若かったのだ。

 林光のオペラは、「森は生きている」(マルシャーク原作、1992年)と「変身」(カフカ原作、1996年)を観たことがある。児童文学が原作の「森は生きている」は心温まる詩的な作品だった。「変身」にも感心した。カフカの小説をオペラとしてよくまとめていた。乾いた音楽が、主人公の悲劇をくっきりした輪郭で描きだしていた。

 「白墨の輪」には、ブレヒト一流の、突き放した感覚を予想していた。そうではなかったのは、前述のとおりだが、それは林光の若い情熱が主因だろう。また、本作を「民衆の劇」(今回演出を担当した坂手洋二氏の「演出家のことば<旅>と音楽劇……」より)と捉えた演出も影響しているのかもしれない。

 正直言って、何度か涙が頬をつたった。年のせいか、涙もろくなった。

 1978年の初演はピアノだけの伴奏だった(こんにゃく座公演)。2001年には神奈川芸術文化財団主催でオーケストラ版が公演された。ピアノ版とオーケストラ版では多くの改変があるそうだ。今回は、オーケストラ版にもとづき、ピアノとフルート、オーボエ(一部イングリッシュホルン持ち替え)、クラリネット、ファゴット各1本の室内アンサンブル版で公演された(吉川和夫、寺嶋陸也、萩京子の編曲)。

 林光のオペラは、昨年「吾輩は猫である」が上演されたと思うのだが、記憶がはっきりしない。林光はいったい何本のオペラを書いたのだろう。ホームページを見てみたら、33本も掲載されていた。ユニークな作品群かもしれない。発掘を待っている宝の山かもしれない。

 突飛な連想かもしれないが、ベンジャミン・ブリテンが書いた一連の室内オペラを思い出した。将来その日本版と位置付けられる可能性は――。
(2015.2.8.世田谷パブリックシアター)

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