Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

「作曲家の個展Ⅱ」金子仁美×斉木由美

2018年12月01日 | 音楽
 今年の「作曲家の個展Ⅱ」は金子仁美(1965‐)と斉木由美(1964‐)。二人は同世代で、フランス留学の時期も重なっている。そんな二人が「お茶をしながら」練った企画テーマは「愛の歌」。一見して甘いテーマに見えるが、もちろんそんなことはなくて、「愛の歌」はスペクトル楽派のジェラール・グリゼイ(1946‐1998)の曲名から取られている。金子はグリゼイに師事し、斉木も管弦楽法を学んだ。

 プログラムは前半が金子と斉木の旧作を1曲ずつ、後半が新作を1曲ずつ。演奏順とは前後するが、まず金子の作品から記すと、旧作はピアノとオーケストラのための「レクイエム」(2013)。東日本大震災のとき金子はパリにいたが、多くの人が心配してくれる中で、本作を書いた。

 演奏時間は20分くらいだったろうか(不確か)、その中で入祭唱→キリエ→怒りの日→ラクリモサ→サンクトゥス→ベネディクトゥス→アニュスデイ→ルクスエテルナ→リベラメ→インパラディスムが展開する。

 新作は「分子の饗宴」。プロローグ→基本味(酸味、塩味、旨味、苦味、甘味物質の分子構造)の提示→摂取(食事)→消化(体内での消化)→エピローグと続く。旧作、新作とも一つの推移が構想されているのは偶然だろうか。金子の作品を聴くのは今回が初めてなので、わからないが。

 演奏はピアノが野平一郎、オーケストラが沼尻竜典指揮の都響。作品を十分に消化して、鮮度の高い演奏を繰り広げた。最近の作曲家は幸せだ。初演のときから完成度の高い演奏で紹介される。

 一方、斉木の旧作は「アントモフォニーⅢ」(2003~4)。本作は2004年6月の読響定期で初演された(指揮はゲルト・アルブレヒト)。わたしはそれを聴いているが、今回再び聴いて、そのときの記憶が蘇った。じっと耳を澄ますと、さまざまな虫の音が聴こえてくる、という音の風景をオーケストラで表現した曲。

 新作は「The First Word/第一の言葉」。曲名はイエスの十字架上の7つの言葉の第一の言葉「父よ、彼らをお赦しください。自分が何をしているのか知らないのです。」に由来する。本作を契機に今後7つの言葉の連作に発展するのか、と期待される。

 楽音以外のノイズも交えた曲。曲想はシリアスで緊張感に富む。全体を通して、金子の音楽が理科系なのに対して、斉木の音楽は文科系で、その対照がおもしろかった。
(2018.11.30.サントリーホール)

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