Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

アラン・ギルバート/都響

2024年07月24日 | 音楽
 アラン・ギルバート指揮都響の都響スペシャル。現代作品2曲と「シェエラザード」というプログラムだが、そのすべてにハープが使われ、ハープは吉野直子が客演するという豪華版だ。

 1曲目はフィンランドのリンドベルイ(1958‐)の「EXPO」(2009)。10分程度の短い曲だが、リンドベルイ自身の書いたプログラムノートによると、「10を超えるテンポ設定の指示」があるそうだ。なるほど、めまぐるしくテンポが変わる。おもしろいのは、その変化がデジタル式に変わるのではなく、あるテンポに別のテンポが滲み込むように変わることだ。それが約10分間絶え間なく起こる。リンドベルイらしい明るい音色が移ろいゆくポジティブな曲だ。アラン・ギルバートのニューヨーク・フィル音楽監督就任に当たって書かれた曲。アランの持ち歌のようなものだろう。手の内に入った演奏だ。

 2曲目はエストニア出身だが、エストニアがソ連に併合されて以来、スウェーデンに住んだトゥビン(1905‐1970)のコントラバス協奏曲(1948)。コントラバス独奏は都響の首席奏者・池松宏。いろいろな点でおもしろかった。まずコントラバス独奏にPAが使われたこと。そのPAの音響が良く、すこしも不自然さを感じなかった。また独奏者の椅子が、オーケストラ内でコントラバス奏者が使う高い椅子ではなく、チェロ奏者が使う椅子だったこと。その椅子に腰かけて演奏すると、コントラバスが普通のチェロより一回りも二回りも大きいお化けのように見えた。

 曲はリズムが明快で、動きがあり、コントラバスのイメージを一新するものがあった。池松宏の独奏も良かったのだろう。アンコールに吉野直子のハープを伴ってスタンリー・マイヤーズの「カヴァティーナ」が演奏された。映画「ディア・ハンター」のテーマ曲らしい。胸にしみるような曲だ。この曲ではPAを使わなかった。生音とPAを使った音との対比もおもしろかった。

 3曲目はリムスキー=コルサコフの「シェエラザード」。冒頭のトゥッティの音が、アランはとくに力まずに、さりげなく振り始めたように見えるのに、ずっしりと重い音が出たのに瞠目した。先日聴いたノット指揮東響の緊張の極みにあった音とは対照的だ。直後に入る矢部達哉のヴァイオリン独奏は繊細なニュアンスにあふれている。吉野直子のハープもセンス抜群だ。

 以降、アランと都響との息の合った演奏が続いた。それは両者の会話のようだった。チェロ首席の伊東裕をはじめ、木管・金管の各奏者の名演も、アランとの息の合った、その余裕から生まれたもののように思えた。
(2024.7.23.サントリーホール)
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