Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

エル・グレコ展

2013年03月13日 | 美術
 エル・グレコは、大原美術館に「受胎告知」があるお陰で、日本人にもお馴染みの画家だ。また、国立西洋美術館には「十字架のキリスト」があるので、わたしのような東京在住の者にとっては、いつでも観られる画家の一人になっている。

 でも、これには一長一短がある。観ようと思えば簡単に観られるので、普段あまり意識しないというか、わたしのような怠け者は、その生涯さえろくに知らないでいた。このたび、世界中の美術館から作品を集めた労作「エル・グレコ展」に接して、はじめて明確な認識をもてた。

 なるほど、これは大変な画家だ。スペインの三大画家という言い方があるらしいが(エル・グレコ、ベラスケス、ゴヤ)、たしかに他の二人に匹敵する力量の持ち主だ。もちろん時代がちがうので、工房の存在という要素があるが、そこを透かして見えてくる力量はものすごい。

 宗教画がメインのフィールドであることはまちがいない。今回の超目玉「無原罪のお宿り」↑(サン・ニコラス教区聖堂)の濃厚さといったら――。工房の存在はあったにしても、それによって作品が薄まった感じはまったくない。さらにまた、肖像画や聖人画においても、エル・グレコ直筆であることが想像される作品が多く、感銘深いものがいくつもあった。

 大原美術館の「受胎告知」で決定づけられた、不穏な黒い雲、そこを切り裂く黄色い稲妻、艶のない暗い赤、といったイメージは、かならずしもエル・グレコのすべてに共通するものではないこともわかった。「聖アンナのいる聖家族」(タベラ施療院)や「悔悛するマグダラのマリア」(ブダペスト国立西洋美術館)などは明るい青空が背景だ。

 また、国立西洋美術館の「十字架のキリスト」は工房作である可能性が指摘され、わたしなどは、いかにも気乗りがしていない作品だと、生意気にも考えていたが、今回、他の多くの工房作を観ているうちに、かならずしも他の作品に比べて劣るものではないことがわかった。

 本展の監修者であるマドリード自治大学のフェルナンド・マリーアス教授は、クローズアップされがちな「宗教画家」の顔だけでなく「16~17世紀を生きた普通の人であり、人間的にも興味深い画家だったことを紹介したい」と語っている。たしかに、その時代背景をふくめて、この画家を身近に感じることのできる展示内容になっている。

 そういう意味でもありがたい展覧会だった。
(2013.3.8.東京都美術館)

↓大原美術館「受胎告知」
http://www.ohara.or.jp/201001/jp/C/C3a03.html
↓国立西洋美術館「十字架のキリスト」
http://collection.nmwa.go.jp/P.1974-0001.html

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