Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

セガンティーニ展

2011年12月05日 | 美術
 損保ジャパン美術館で開催中の「アルプスの画家セガンティーニ ―光と山―」展。本来は4月に開会予定だったが、原発事故のために見送りになった。7月以降、滋賀県と静岡県の巡回展が開催され、このたび東京にも来てくれた。関係者の理解と努力のたまものだ。

 セガンティーニというと、代表作のひとつ「アルプスの真昼」が大原美術館にあるので、わたしたちにも馴染みの画家だ。独特の分割技法によってアルプスの光と空気をとらえたその絵は、セガンティーニのイメージを決定づけた。わたしなどは、すっかりわかった気になってしまい、その生涯を考えることは怠っていた。

 本展を観るにあたって、セガンティーニの生涯を調べてみた(といっても、Wikipediaで調べたくらいだが)。一読して驚いたことは、恐ろしく悲惨な少年時代をすごしていたことだ。幼くして母と死別し、異母姉(セガンティーニの母は後妻。この姉は先妻の娘)に預けられた。異母姉も貧しく、セガンティーニを顧みることはなかった。12歳のときに少年院に収容されたが、それは浮浪児同然だったからだ。

 普通だったら破滅するか、悪の道に入るしかないだろうが、17歳のときに画家兼室内装飾家の助手として雇われたことが転機になった。美術学校の夜学に通うようになった。同校とは衝突を繰り返し、ついには退学になったが、才能は着実に伸びていった。

 セガンティーニにとっては、絵は貧しさから脱け出す唯一の手段だった。いくつかの作風の変遷の末にたどり着いた分割技法による、アルプスの陽光が燦々と降り注ぐ絵には、そのような背景があったのだ。

 本展には数点の自画像が来ている。1882年頃の自画像では、暗闇からいかにも癖のありそうな顔が浮き上がっている。首には剣の柄のようなものが刺さっている。当時のセガンティーニは24歳頃。すでに結婚して、その年には長男が生まれたが、内面には不安が渦巻いていたようだ。

 もうひとつの自画像、木炭で描かれた1895年の自画像も、暗い画面だ。遠い背景にはアルプスの山並みのシルエットが見える。これは画家として成功した署名のようなものかもしれない。こちらに向けられた顔はどこか虚ろで、不安な内面を見つめているように感じられる。生活は豊かになったが、内面の不安は癒されなかったのだろうか。
(2011.12.2.損保ジャパン東郷青児美術館)

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