Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

大友直人/東響

2015年10月11日 | 音楽
 早坂文雄(1914‐1955)の没後60年コンサート。故人が生前ゆかりの深かった東京交響楽団の演奏、指揮は大友直人。

 1曲目は映画「羅生門」から真砂の証言の場面のボレロ。ラヴェルの「ボレロ」とそっくりだ。パロディーとかオマージュとか、そんなものではなく、焼き直しとか換骨奪胎とかというほうが相応しい。

 これは黒澤明監督の要求らしい(プログラムに掲載された西村雄一郎氏のエッセイ「早坂文雄の“白鳥の歌”」)。早坂文雄はその要求に見事に応えた。わたしはこの映画を見ていないが、もし見たら、そしていきなり「ボレロ」が始まったら、きっと驚いたろう。効果抜群だったかもしれない。

 演奏はよかった。フルート、アルト・サックスなど木管の各奏者の安定した音が心地よかった。木管に限らずどのパートも技術的には難しい曲ではないだろうが、丁寧に演奏していた。なお、小太鼓は響線をはずして演奏する点が、ラヴェルと異なっていた。

 2曲目は交響的童話「ムクの木の話し」。1946年に製作されたアニメーション映画「ムクの木の話し」のための音楽。戦後の闇市の時代にアニメーション映画が作られ、それを見に行った人々がいることに、わたしなどは驚いてしまう。今の時代の視点からではなく、当時の人々の状況を想像して見るべき(聴くべき)作品だ。

 3曲目は交響的組曲「ユーカラ」。わたしはこの曲には縁があって、山岡重信/日本フィルと山田一雄/日本フィルの演奏を聴いたことがある。今回が3度目だ。中でも山田一雄のときは名演だった。当時のメモを見てみると、山田一雄は指揮台から落ちたり、譜面台をひっくり返したりして、大熱演だったようだ。

 大友直人の指揮は、丁寧かつ几帳面に仕上げていた。思い入れの深さでは山田一雄に及ばないかもしれないが、スタイリッシュにまとめていた。この曲がどんな曲か、よく分かった。‘点’と‘線’の作曲法とか‘汎東洋主義’とかよりも、実際にはむしろ生硬なモダニズムを感じた。メシアンやストラヴィンスキーの模倣はその一部に過ぎない。

 早坂文雄はこの曲を完成して翌月初演し、その4か月後に亡くなった。この曲は死期を悟った早坂文雄の性急な遺言だったのではないだろうか。これを超えよ――。そう言われた一人が武満徹だった。武満徹は2年後に早坂文雄を悼んで「弦楽のためのレクイエム」を書き、そして超えていった。
(2015.10.10.ミューザ川崎)

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