Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

フランス音楽の彩と翳Vol.16

2010年01月18日 | 音楽
 東京シティ・フィルの1月定期は首席客演指揮者の矢崎彦太郎さんが続けている「フランス音楽の彩(あや)と翳(かげ)」シリーズの第16回。今回のプログラムは次のとおりだった。
(1)マスネ:組曲第7番「アルザスの風景」
(2)ダンディ:フランス山人の歌による交響曲(ピアノ:相沢吏江子)
(3)マニャール:交響曲第4番

 1曲目の「アルザスの風景」は愛すべき小品だが、私は生できいた記憶がない。CDはたくさん出ているが、生できく機会は意外に少ない作品。
 全部で4曲からなるが、いずれも気合の入ったパワフルな演奏。小品をいかにもそれらしくロマンティックに演奏するのではなく、全力投球。こういう演奏は気持ちがよい。

 プログラム誌の解説によると、この曲はマスネがドーデの短編小説集「月曜物語」を読んで、その中の一作「アルザス!アルザス!」に触発されて書いたとのこと。私も週末に読んでみた。岩波文庫で6ページ足らずの小品。筋らしい筋はなく、散文詩のような作品で、若いころの徒歩旅行の楽しい想い出を書いているが、その背景には普仏戦争によって失われたアルザス地方への郷愁がある――それは「月曜物語」の冒頭に置かれた「最後の授業」と共通するもの。

 2曲目の「フランス山人の歌による交響曲」も生できく機会は少ない。私はこれが初めてではないが、では、いつきいたかというと、思い出せない。
 ピアノ独奏をともなう交響曲だが、こういう形式はどこから生まれたのかと思いながらきいていて、これはピアノ協奏曲のオーケストラ・パートが拡大したのだという気がしてきた。類似の曲では、ファリャの「スペインの庭の夜」が思い浮かぶ。先行する例としては、ダンディの師であるフランクの交響詩「鬼神(ジン)」あたりか。
 演奏はときどきオーケストラが野放図に鳴ることがあった。

 3曲目のマニャールという作曲家は、私は名前さえ知らなかった。解説によると、パリ音楽院でマスネについて学び、さらにダンディに学んだ人とのこと。第1次世界大戦の犠牲になって、悲劇的な最期をとげたそうだ。
 曲は全4楽章からなる本格的なもの。移ろい行く色彩感はショーソンの交響曲に通じるものがあり、循環主題の回帰はフランクの交響曲の流れの中にあることを感じさせる。
 第1楽章の序奏でトロンボーンが吹くテーマは、私にはワーグナーの「ニーベルンクの指輪」のジークフリートの動機の冒頭に似ているように感じられた――もっとも解説にはなにも書かれていなかったので、私だけの感覚かもしれない。
 シティ・フィルがこの曲を演奏するのは初めてだろうが、よく指揮についていった。
(2010.1.15.東京オペラ・シティ)

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