Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

マダム サン・ジェーヌ

2010年01月19日 | 音楽
 おそらく限られた予算だろうが、その中で頑張って埋もれたオペラの発掘・上演を続けている東京オペラ・プロデュースの第85回公演、ジョルダーノ作曲の「マダム サン・ジェーヌ」。

 ジョルダーノといえば、なんといってもまずは「アンドレア・シェニエ」。フランス革命を背景にして、革命思想にシンパシーをもつ詩人と没落した貴族の娘との悲劇的な愛を描く、流麗かつ雄弁な音楽。

 一方、「マダム サン・ジェーヌ」は、同じくフランス革命を背景にしているものの、革命の混乱の中で洗濯屋の女主人が貴族にまでのぼりつめる成功譚。柳の下の二匹目のドジョウを狙ったというよりも、180度方向を変えた、あっけらかんとした喜劇だ。

 このオペラはニューヨークのメトロポリタン歌劇場の委嘱によって作曲され、1915年に名指揮者トスカニーニの指揮で初演されたとのこと。このデータには妙に納得できるところがある。1915年というと、ヨーロッパはその前年に第1次世界大戦に突入しているが、アメリカは参戦せず、経済は大好況だった。そのようなときに旧大陸を笑い飛ばすこのオペラが市民の心をとらえたことは、十分に考えられる。

 音楽は、現世肯定的な明るい音楽を主体としつつ、コミカルな音楽、シリアスな音楽、陰鬱な音楽などが挟み込まれ、変化に富んでいる。全3幕から成り、第1幕と第3幕は明るいハッピーエンドで閉じられるが、そのときの音楽はイタリア・オペラ的であると同時に、ミュージカルの先駆けのようにも感じられる。

 歌手は、女主人公の夫役の内山信吾が張りのある声。この人は昨年の新国立劇場公演の「ムツェンスク郡のマクベス夫人」でも健闘していたが、さすがにこの日のキャストの中では目立った。
 女主人公の大隈智佳子も、持ち前の太い、やや暗めの声で、シリアスなアリアをじっくりときかせた。
 ナポレオン役(このオペラではナポレオンが出てきて、妻の不貞を疑ったり、女主人公を誘惑しようとしたりする。「アンドレア・シェニエ」ではロベスピエールが出てくるが、あちらは黙役。)の井上雅人も豊かな声で堂々としていた。
 総じてこの日の声楽陣はハイレベルだった。

 指揮は時任康文で、このオペラを過不足なくきかせてくれた。
 演出は彌勒忠史。オーソドックスなものだが、どこかに温かさが感じられた。
(2009.1.16.新国立劇場中劇場)

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