Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ジャコメッティ展

2017年08月12日 | 美術
 ジャコメッティ展は、2006年に神奈川県立近代美術館葉山で開かれたものを見て、感動したことがあるが、国立新美術館で開かれている本展は、それと比べても画期的だと思う。

 なぜかというと、ジャコメッティ(1901‐1966)がチェース・マンハッタン銀行の依頼を受けて制作した3点の巨大な作品が来ているから。「大きな女性立像Ⅱ」、「大きな頭部」そして「歩く男Ⅰ」。いずれも1960年の作品。結局それらの作品を同銀行に設置する構想は実現しなかったが、ジャコメッティは熱心に制作した。現在これら3点を所蔵しているフランスのマーグ財団美術館は1964年の開館だが、ジャコメッティはその開館に当たってこれらの作品を寄贈した。

 先ほど‘巨大’と書いたが、その大きさは「大きな女性立像Ⅱ」が276×31×58㎝。見上げるような高さ。どこか秘教の神像のようにも見える。「大きな頭部」は95×30×30㎝。ずっしりした量感はイースター島のモアイ像を連想させる。「歩く男Ⅰ」は183×26×95.5㎝。成人とほぼ等身大の(しかし極端に痩せ細った)その像は、人間存在に関する哲学的な思索が感じられる。

 ジャコメッティというと、細長く引き伸ばされた人体像を思い浮かべるが、これらの3点は、その大きさの物理的なインパクトもさることながら、ジャコメッティがくだんの人体像の制作の過程で、思いもかけないスケールで実体を把握していたことを感じさせる。

 ともかくジャコメッティの作品が、巨大なスケールでも、違和感なく成立することが新鮮だ。これらの3点を見る前と見た後とでは、ジャコメッティにたいする認識が変わると思う。

 本展には他に「ヴェネツィアの女」の連作9点が来ている。いずれも1956年の作品。高さ1m余りのほぼ同じサイズの作品が、単体ではなく、群像として並ぶと、モニュメンタルな荘厳さが漂う。

 それらの9点の女性立像は正面を向いている。前述の「大きな女性立像Ⅱ」も同じ。油彩の肖像画も、対象が女性であろうと男性であろうと、正面観だ。正面性はジャコメッティの特徴の一つだが、そこにはなにか意味がありそうに感じた。

 ジャコメッティは対象との間合いを測っていたのだと、わたしは思った。ジャコメッティには(物理的ではなく)精神的な‘距離’の感覚があり、わたしはそこに惹かれているのかもしれない。
(2017.8.7.国立新美術館)

(※)本展のHP

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