Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

リゴレット

2013年07月17日 | 音楽
 チューリヒ歌劇場の「リゴレット」。2013年2月初演の新制作だ。舞台にあるのは長い机だけ。その机は3脚の事務用の机を並べて、白いシーツを掛けたもの。周囲には事務用の椅子が並べられている。こちら側に9脚、向こう側に9脚、そして左右両サイドに2脚ずつ。要するにこれだけの舞台。殺風景といえば殺風景だ。ガランとした舞台でオペラは進行する。

 こういう舞台だが、オペラの進行に不足はなかった。むしろ不自然な箇所(たとえばリゴレットが、ジルダを誘拐しに来た廷臣たちに騙されて、目隠しをされて梯子を支える場面など)があっさり処理され、気にならない利点があった。

 利点といえば、最大の利点は、音楽に集中できたことだ。シンプル極まる舞台で滑らかに進行するので、ストーリーは――視覚情報よりも――想像力にゆだねられ、関心はむしろ音楽に集中する結果になった。

 音楽に集中すると、今更ながらこれは傑作だと思った――そんなことをいうこと自体間が抜けているかもしれないが――。ことに第1幕第2場で自宅に戻ったリゴレットがジルダと交わす二重唱――リゴレットの旋律線とジルダのそれとの明暗の交錯――に、第3幕のリゴレット、ジルダ、マントヴァ公、マッダレーナの四重唱の予告を感じた。

 そうか、あの四重唱は突然生まれたのではなく、音楽的な進行の帰結だったのかと思った。生まれるべくして生まれたというか、もっというなら、このオペラはあの四重唱に向けて高まり、その後急速に下降する構造なのだと思った。

 こんなことは素人のたわごとかもしれないが、わたしはそう思った。そして初めてこのオペラを把握できた気がした。今まではストーリーを追っているだけで、音楽をしっかり聴いていなかったと反省した。

 演出はタチヤナ・ギュルバカTatjana Guerbaca。ドイツのマインツ劇場でオペラ監督をしているそうだ。指揮はファビオ・ルイジ。CD的な完璧性を求めた指揮ではなく、劇場的な熱い指揮だった。音楽を激しく追い込んでいく指揮。

 リゴレットはクィン・ケルシーQuinn Kelsey(同行者二人が口をそろえて「西田敏行に似ている」といっていた。たしかにそういわれてみると……)。ジルダは予定されていた歌手が急病とかで、ローザ・フェオラRosa Feolaに代わった。1986年生まれの若い歌手。満場の喝さいを浴びていた。マントヴァ公はサイミール・ピルグSaimir Pirgu。この役にしては生真面目だった。
(2013.7.13.チューリヒ歌劇場)

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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-08-04 12:44:13
はじめまして。レポート興味深く拝見致しました。夏季休暇で日本から旅行し、偶然同じ晩に同じ舞台を観ていたようです。久しぶりのチューリッヒでしたが、当日昼に平土間5列目中央が買えて、よい出し物でした。シンプルな舞台で音楽に集中できましたが、結構演出的には面白い細工も各場所にあって、故ベルクハウスやP・コンヴィチュウニーの影響が感じられました(→四重唱の箇所で公爵がジルダをきっぱりと無視する仕草や、ジルダ殺害の箇所等)。
A・Kurzakの代役でジルダ役を歌ったRosa Feola ご指摘のようにとても良かったです。公爵役のS・Pirguは、故A・クラウスの折り目正しさに少し甘味を加えたような歌唱で、好感を持ちました。ルイジ指揮のピットは、求心的に奏でた響きからは、明るさは少ないものの、極めて雄弁にリゴレットの悲劇を紡いでいたと思います。
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Unknown (Eno)
2013-08-06 22:33:47
3日(土)から山に出かけていましたので、返事が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。ご指摘の点、すべて同感です。普段はほとんどコメントが入らない地味なブログですので、コメントが入ると飛び上がって喜んでしまいます。ありがとうございました。
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