Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

お隣さんはヒトラー?

2024年07月29日 | 映画
 映画「お隣さんはヒトラー?」。時は1960年、所は南米・コロンビア。荒れ果てた野原に廃屋のような家が2軒ある。その1軒に住むのはポーランド系のユダヤ人ポルスキー。ナチス・ドイツのホロコーストにより家族全員が殺された。ポルスキーだけが生き延びて、コロンビアで暮らす。孤独だが、平穏な日々だ。

 ある日、空き家だった隣の家にドイツ人のヘルツォークが引っ越してくる。えらく威張り腐った男だ。ポルスキーとのあいだにトラブルが絶えない。いつもサングラスをかけているが、トラブルのはずみにサングラスを外す。青い目だ。ポルスキーは過去に一度だけヒトラーを見たことがある。ヘルツォークの目はヒトラーにそっくりだ。

 ポルスキーはヒトラーにかんする本を調べ始める。ヘルツォークは多くの点でヒトラーに似ている。時あたかもナチスの高官のアイヒマンがアルゼンチンで捕らえられたことが大きなニュースになった。ヒトラーも、じつは自殺したのではなく、コロンビアに潜伏していて、隣の男こそヒトラーではないか‥と。

 周知のように、ヒトラー生存説は大戦直後からあり、その中には南米逃亡説もあった。「お隣さんはヒトラー?」は南米逃亡説にもとづくフィクションだ。

 ヒトラーを扱ったフィクションでは、数年前の「帰ってきたヒトラー」が秀逸だ。ヒトラーが現代に蘇るという荒唐無稽なコメディだ。蘇ったヒトラーが難民問題への不満の高まりを見て、「これならいける」と考え、再び親衛隊を組織するラストシーンにはゾッとする。「お隣さんはヒトラー?」もコメディだが、そのようなシリアスな面はない。最後はペーソスあふれる結末を迎える。そこで描かれるのは、ポルスキーをはじめとして、ヒトラーに人生を破壊された人々の傷と、それでも生きていく姿だ。

 上掲のスチール写真(↑)の左の男がポルスキー、右の男がヘルツォークだ。ポルスキーが着るパジャマのような服は、強制収容所に収容されたユダヤ人たちの囚人服に似ていないだろうか。ヘルツォークはガウンのような服を着ていて対照的だ。哀れなポルスキーだが、もしもヘルツォークがヒトラーなら、殺された家族の恨みを晴らしたいと考える。そんなポルスキーを演じるのはデビッド・ヘイマン。揺れ動く心理を表現して名演だ。一方、ヘルツォークを演じるのはウド・キア。存在感がある。

 映画の後半で繰り返し流れる曲がある。ユダヤ的な哀感のある曲だ。エンドロールで曲名が流れたが、覚えられなかった。1931年とか1932年とかの記載があったような気がする。その頃の曲だろうか。レトロな味がある。
(2024.7.26.新宿ピカデリー)
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