Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ヴェンツァーゴ/読響

2023年09月13日 | 音楽
 マリオ・ヴェンツァーゴは1948年、スイスのチューリヒ生まれ。読響には2021年11月に初登場したが、わたしは聴かなかったので、今回が初めて。

 1曲目はスクロヴァチェフスキ(1923‐2017)の「交響曲」(2003)。日本初演だ。スクロヴァチェフスキは今年生誕100年。リゲティと同い年だ。リゲティはハンガリー動乱のさいにハンガリーを脱出した。20世紀の激動の歴史を体現する人だった。一方、スクロヴァチェフスキはパリで学んだり、アメリカに渡ったりしたが、出国の困難はあまり聞かない。ハンガリーとポーランドの政情のちがいか。

 「交響曲」は、音の運動性、各部分の響きの作りなど、いかにもスクロヴァチェフスキの作品だ。実感としては、スクロヴァチェフスキその人がそこにいるような感覚だ。不思議な気がした。スクロヴァチェフスキは、作曲と指揮に共通する特質があったので、そんな感覚が生じるのだろうか。全3楽章からなるが、とくに第3楽章の悲劇性に注目した。基本的には緩徐楽章だが、20世紀の人類の苦難が反映されているようだった。

 演奏も良かった。もちろん読響がスクロヴァチェフスキの作品を熟知していることが第一だが、ヴェンツァーゴも作品にシンパシーを抱いているように感じられた。通り一遍の指揮ではなく、積極性のある指揮だった。

 2曲目はブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」(1878/80年稿、ノヴァーク版)。第1楽章が始まると、まずテンポが速いことに気付く。だが、インテンポで押すのではなく、けっこう変化させる。全合奏による第1主題の確立(2+3連符のリズムの部分)では弦楽器のトレモロを全員全力で弾く。一人ひとりの音が聴こえるようだ。第3楽章のトリオはあっという間に終わる。のどかなレントラーなんてものではない。第4楽章の第2主題も速いが、第3主題はまるで嵐のようだ。

 全体としては、きわめてユニークなブルックナーだ。第一にオーケストラをマッスとして鳴らさない。数多の音の絡み合いとして鳴らす。なので、重い音にはならない。第二にリズムが明確だ。雰囲気の中に溶解しない。明確な意思をもってリズムを刻む。第三にオーケストラのバランスが独特だ。とくに木管楽器を強く吹かせる。弦楽器とのバランスは室内オーケストラに近い。それを16型の弦楽器にたいしてする。

 結果、どのようなブルックナー像が立ち上がるか。重厚で響きに酔うドイツ的なブルックナーではなく、のどかさを秘めたオーストリア的なブルックナーでもない。透明な空気感をもつ現実的なブルックナーだ。スイスのドイツ語圏の感覚だろうか。
(2023.9.12.サントリーホール)
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