Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

国立新美術館「テート美術館展」

2023年09月22日 | 美術
 国立新美術館で「テート美術館展」が開催中だ。会期は10月2日まで(その後、大阪に巡回)。すでに多くの方がご覧になったと思うが、まだの方もいるだろうから、ご紹介したい。コロナ禍以来、大型の海外美術館展が難しくなっている中で、貴重な展覧会だ。イギリスのテート美術館から「光」をテーマに作品を選択・構成している。見応え十分だ。

 テート美術館というと、まずターナー(1775‐1851)だ。本展には数点の作品が展示されている。その中でもチラシ(↑)に使われている「湖に沈む夕日」(1840年頃)は、ターナーのエッセンスを凝縮した作品だ。一面の濃い靄の中から夕日が輝く。湖面と空の境界は見分けがつかない。沸き立つ靄に夕日が映える。息をのむような荘厳な眺めだ。近寄ってよく見ると、夕日はベタっと塗られた白い絵の具に過ぎない。だが少し離れて見ると、リアルな夕日に見える。まるでマジックだ。

 ターナー以外の作品では、コンスタブル(1776‐1837)やラファエル前派などのイギリス絵画のほか、モネ(1840‐1926)などの印象派の作品、またわたしの好きなデンマークの画家ハマスホイ(1864‐1916)の作品も来ている。

 それらの作品の中で感銘を受けたのは、マーク・ロスコ(1903‐1970)の「黒の上の薄い赤」(1957)とゲルハルト・リヒター(1932‐)の「アブストラクト・ペインティング(726)」
(1990)だ(ともに本展のHP↓に画像が載っている)。

 ロスコの「黒の上の薄い赤」は、赤い下地の上に黒い長方形が上下に二つ並んでいる。下の長方形は塗りが薄く、上の長方形は塗りが厚い。じっと見ていると、描いているときのロスコの息遣いが感じられる。見る者はその息遣いに同化し、瞑想的な気分になる。だがその上の薄い赤は何だろう。一見、何かを塗りつぶした跡のようだ。題名を振り返ると、「黒の上の薄い赤」とある。その薄い赤こそテーマなのだ。瞑想的な気分を破り、意識を覚醒させる。

 リヒターの「アブストラクト・ペインティング(726)」はシャープで美しい。雨に濡れた歩道に映る街の灯りのように見える。あるいは雨に濡れた窓ガラスを通して見る街の灯りか。ただ異様なのは、画面にナイフで切り裂いたような亀裂が走ることだ。それが見る者を緊張させる。たんに美しい作品では終わらない。

 本展の特徴のひとつは、現代美術が質量ともに充実していることだ。楽しいインスタレーションが多数展示されている。例示は省くが(見てのお楽しみだ)、これらのインスタレーションは、案外、大人よりも子どものほうが楽しめるのかもしれない。
(2023.7.13.国立新美術館)

(※)本展のHP
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