Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ロシア・アヴァンギャルドのCD

2020年12月19日 | 音楽
 先日(12月15日)保屋野美和のピアノ・リサイタルを聴いて、ロシア・アヴァンギャルドの音楽に注目したので、CDをいくつか聴いてみた。

 ロシア・アヴァンギャルドとは1917年のロシア革命の前後(具体的には革命前夜の1900年代からスターリン体制が強まる1930年頃まで)の前衛的な芸術運動をいうが、美術のマレーヴィチ、文学のマヤコフスキー、映画のエイゼンシテインなどのようなビッグネームを、音楽は輩出しなかったため、音楽は影が薄いといわざるをえない。

 亀山郁夫の著書「ロシア・アヴァンギャルド」(1996年、岩波新書)によれば、「ところで、どのような革命もおおむね二つの段階を経ることで、一つの大きな環を閉じる。ロシアの近代音楽史において第一次革命は、早くも1910年代前半に一つのクライマックスを形づくった。」として、「第一次革命のにない手」にスクリャービンをあげている。

 スクリャービンは1915年に亡くなったが、その後を継いだ作曲家(ロシア・アヴァンギャルドの作曲家)としては、ロスラヴェッツ(1881‐1944)、ルリエ(1892‐1966)、モソロフ(1900‐1973)などが、同書をはじめ、一般的にあげられる。だが、それらの作曲家がどんな音楽を書いたかは、あまり知られていないのが実情ではないかと思う。

 今回わたしはCDでそれらの作曲家を聴いたわけだが、なかでもおもしろかったのは、シュライエルマッハーというピアニストが弾いた「ソヴィエト・アヴァンギャルド1」(↑画像)と「同2」の2枚のCDだ。上記の3人をふくめて、数人の作品を弾いているので、相互の比較がしやすい。そのCDで聴くかぎりでは、ロスラヴェッツには同時代の西欧の無調音楽に通じるものを、ルリエには鋭い感性を、モソロフには激しい気性を感じた。

 上記の保屋野美和のピアノ・リサイタルで鮮烈な印象を受けたオブホフ(1892‐1954)の「祈り」には、ウッドワード(武満徹の招きで来日したことのあるウッドワードだろうか)のCDがあったが、その演奏はキレ味に乏しく、ぼやけたような感じがした。

 亀山郁夫の前掲書では、「第二次革命」の代表的な作品として、モソロフの管弦楽曲「鉄工場」をあげている(この曲はいまでも演奏される)。だが、同曲の初演が1927年12月だったことが暗示的なように、ロシア・アヴァンギャルドの音楽は(音楽にかぎらず、美術も文学も同じだが)、その頃から政治的な弾圧を受け始め、まもなく終焉する。

 そのときルリエはすでに国外へ亡命していたが(ドイツからフランスへ、後にアメリカへ)、ロスラヴェッツとモソロフは国内にいて、不遇な後半生を送った。二人のその時期の作品を聴くと、社会主義リアリズムに則ったのか、平明で抒情的な作風になっている。
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