Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

B→C 保屋野美和ピアノ・リサイタル

2020年12月16日 | 音楽
 東京オペラシティのB→Cシリーズに保屋野美和(ほやの・みわ)というピアニストが登場し、じつに興味深いプログラムを組んだ。まず前半はバッハの「パルティータ第6番」と、それに触発された高橋悠治の「アフロアジア的バッハ」を数曲ずつ交互に弾くというもの(バッハの曲は7曲からなり、高橋悠治の曲は10曲からなる)。

 「アフロアジア的バッハ」は一度聴いたことがあるが(2014年2月、高橋悠治自身の演奏で)、そのときはあまりおもしろいとは思わなかった。今回はおもしろかったのはなぜか。数曲ずつ交互に弾いたので(2014年2月には「アフロアジア的バッハ」を弾いてからバッハの「パルティータ第6番」を弾いたのではなかったかしら)、バッハの曲を解体してその残骸を曲にした、そのバッハからの残響が、鮮明に聴こえたからだろうか。

 「パルティータ第6番」の演奏は、一音一音はっきり発音するような演奏だった。けっして流麗ではないが、自分の発音を確認するような、真面目な演奏だった。

 プログラム後半はガラッと変わって、スクリャービンの初期、中期、後期の各作品と、スクリャービンに触発されたロシア・アヴァンギャルドの曲と現代曲とを交互に演奏するもの。スクリャービンはともかく、ロシア・アヴァンギャルドにスポットライトが当たる機会はあまりないので、これも楽しみだった。

 ロシア・アヴァンギャルドの曲は、オブホフ(1892‐1954)の「祈り」(1916)とロスラヴェッツ(1881‐1944)の「5つの前奏曲」(1919‐22)。ロスラヴェッツはロシア・アヴァンギャルドの代表的な作曲家の一人だが、オブホフはマイナーかもしれない。そのオブホフの演奏は、硬質な音で、研ぎ澄まされた、目の覚めるような快演だった。オブホフを取り上げる理由がよくわかる演奏だった。一方、ロスラヴェッツの演奏は、この作曲家がじつはロマンチックな心情の持ち主だったのではないか、と思わせる演奏だった。

 スクリャービンの3曲のなかでは、やはり後期の「焔に向かって」がおもしろかった。スクリャービンの代表作の一つだが、スクリャービン以外のだれも書こうとしなかった特異な音楽で、演奏もピアノがよく鳴り、独特の厚みがあって、そのなかで高音が雄叫びをあげる音響がよく再現されていた。

 最後の現代曲は足立智美の「スクリャービン・シンセサイザー第2番」(今回の委嘱作)。電子音とピアノとの競演の曲だ。作曲者自身によるプログラム・ノートが難解だが(ウェブ上にはさらに難解で長大な解説が掲載されている)、わたしは単純に楽しんだ。曲の後半で照明による演出があったが、あれはスクリャービンの色光ピアノのパロディか。
(2020.12.15.東京オペラシティ・リサイタルホール)
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