Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ブリテン「夏の夜の夢」

2020年10月05日 | 音楽
 新国立劇場が7カ月余りの休止期間をへてオペラ公演にこぎつけた。演目はブリテンの「夏の夜の夢」。オーケストラ編成が小さいので、オケピットは密にならない利点があるが、一方、児童合唱が入るので、(リハーサルでもステージでも)密にならない配慮が必要だ。その他、さまざまな問題が想像される。くわえて外国人の入国規制が続いているので、指揮者、制作スタッフおよび歌手の代替えが必要だ。それらのハードルを乗り越えて公演にこぎつけた大野和士監督以下関係者の皆さんの努力を讃えたい。

 予定されていた演目がブリテンのこの作品だったことも幸いだ。人はだれでも夢を見る。いや、夢を見たい。そんな願いに応えてくれるのが本作だ。シェイクスピアの戯曲の中でももっとも幸せな作品、そしてブリテンの音楽の中でももっとも幸せな音楽が本作だ。コロナ禍で疲れたわたしたちの心を癒してくれる。

 演出はブリュッセルのモネ劇場のために制作されたデイヴィッド・マクヴィカーの演出にもとづく。そこでは舞台をアテネの郊外の森から(たぶんアテネの大公シーシアスの屋敷の)屋根裏部屋に置き換えている。屋根の破れ目から大きな月がのぞく。その光に照らされて、妖精たちと、若い恋人たちと、職人たちの喜劇が展開する。

 前述のように外国人の入国規制のため、総勢15人の歌手のうち7人が来日できず、その関連で8つの配役が変更になったが、皆さん十分に準備して公演に臨んでいた。なかでも4人の恋人たちのうちの一人、ヘレナ役を歌った大隅智佳子が頭抜けていた。わたしは彼女のデビュー当時にワーグナーの「妖精」を聴いて以来、すっかりファンになったが、その才能がいまも健在なのが嬉しい。

 代替えの歌手ではもう一人、悪戯好きな妖精パックをつとめた河野鉄平に注目した。わたしには未知の歌手だったが、英語の台詞に無理がなく、しかも体の動きに切れがあった。じつは事前には、パック以外の役は日本人歌手でもつとまるだろうが、パックだけは難しいのではないかと思っていた。こんな歌手がいたとは驚きだ。

 一方、妖精の王のオベロンは、当初の予定通り、藤木大地が歌ったが、今回はいつもとくらべて精彩を欠いた。どうしたのだろう。不調だったのか。

 指揮は飯森範親が代役をつとめた。東京フィルからブリテンらしい音を引き出した。第一幕では慎重すぎる気がしたが、第二幕の後半、4人の恋人たちの大騒動の場面ではテンポよく進め、第三幕の幕開けの音楽、それに続く恋人たちの目覚めの四重唱、そして幕切れの妖精たちの合唱(TOKYO FM 少年合唱団)など、声楽陣の好演とあいまって、美しい演奏が続いた。
(2020.10.4.新国立劇場)
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする