Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ドービニー展

2019年05月23日 | 美術
 ドービニー(1817‐1878)はバルビゾン派の画家だが、バルビゾン派というとミレー(1814‐1875)と(広義のバルビゾン派の)コロー(1796‐1875)が有名で、ドービニーはそれに比べると影が薄い印象だ。本展はそんなドービニーに焦点を当て、どんな画家だったかを捉えるもの。

 ミレーというと「農民画の画家」、コローというと「銀灰色の画家」という言葉が脳裏に浮かぶが、ドービニーはどうか。本展では「水の画家」と捉えている。

 ドービニーは簡素な木造のボートのような船を持っていた。その船室をアトリエに設えた。初めて船を買ったのは1857年。ボタンBotin号と名付けた。1868年からはもう少ししっかりした船を使い始めた。ボッタンBottin号と名付けた。本展にはボッタン号を描いた作品が展示されているので、どんな船だったかが分かる(本展のHPに作品の画像が掲載されている)。(※)

 ドービニーはその船でセーヌ川の支流のオワーズ川を行ったり来たりした。気に入った風景があると、船を川べりに着けて、絵を描いた。本展に展示されている作品の多くは、そうやって描かれたものだ。

 チラシ(↑)に使われている作品は「オワーズ河畔」(1863年頃)。穏やかな川、川べりに生い茂る樹木、広い空、川の水を飲みに来た何頭かの牛。豊かで静かな自然の風景だ。この作品は本展のカタログ番号で62番だが、おもしろいことに、79番の「オワーズ河畔」もほとんど同じ風景。ただ、牛の代わりに、洗濯女が描かれている。両作品は大きさと支持体が異なるが(62番は32.2×56.8㎝で支持体は板、79番は84.0×157.5㎝で支持体はカンヴァス)、それを除けば、まちがい探しのクイズのようだ。

 同様のケースは他にもある。たとえば66番の「オワーズ河畔、夜明け」と68番「オワーズ川、朝の効果」そして63番「オワーズ河畔の牛」。これらの3作品も大きさと支持体がそれぞれ異なるが、風景は同じ。違う点は、66番が朝焼けの空を描いているのに対して、68番は少し時間がたって、雲が朝日に輝いている。63番では日が高く、日中の風景になっている。

 これはモネのルーアン大聖堂などの連作を連想させないだろうか。モネが光の推移による連作のアイデアをドービニーに学んだかどうかは分からないが、その先例はここに見出せる。また、モネもアトリエ船を持っていたことが知られているが、それはドービニーに倣ったのは確かなようだ。
(2019.5.22.損保ジャパン日本興亜美術館)

(※)本展のHP
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