Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

高関健/東京シティ・フィル「第九」

2017年12月30日 | 音楽
 もう何年も前から、わざわざチケットを買って「第九」を聴きに行くことはなくなったが、今年は、定期会員になっている某オーケストラが、12月の定期で演奏した「第九」にがっかりしたので、これでは年を越せないと、高関健指揮東京シティ・フィルのチケットを買って聴きに行った。

 行ってよかった。口直しというと、某オーケストラに失礼だが、真面目で真摯な演奏に出会って、やっとすっきりした。某オーケストラ(というより、そのとき指揮した某指揮者の問題だが)を云々する気はないので、高関健/東京シティ・フィルの記録を。

 1曲目はジャン・フランセ(1912‐1997)のクラリネット協奏曲(1968)。クラリネット独奏は中館壮志(なかだて・そうし)。第33回日本管打楽器コンクール第1位。そのとき東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団特別賞を受賞。今は新日本フィルの副主席奏者。若手の優秀な奏者だ。

 ジャン・フランセのこの曲は初めて聴くが、いかにもフランセらしく、明るく、洒脱で、楽しい曲だ。全4楽章で、演奏時間は約20分。全編にわたり、独奏クラリネットと各木管奏者との掛け合いが出てくる。繊細かつ軽妙な掛け合い。独奏クラリネットだけが目立つのではなく、全体が木管楽器の饗宴のような趣だ。

 2曲目はベートーヴェンの「第九」。冒頭のタターン、タターン、タターンのテーマが、タタッ、タタッ、タタッと短く切って演奏される。テンポは速め。弦のヴィブラートは最小限。アクセントの付け方や抑揚に新鮮なアイディアが盛り込まれている。それは第2楽章以下でも同様。

 全体的に、スコアを、なんの先入観もなく、まっさらな状態で読んで、それを音にしたという感があった。わたしは、めったにないことだが、この曲が初演されたときのウィーンの聴衆の驚きを追体験する思いがした。目の前で展開される音楽の、なんと破格で、驚異に満ちたものか、と。その経験は、あらかじめプログラミングされた感動に誘われる経験とは真逆のものだった。

 独唱陣では、バリトンの与那城敬の、強い表情で語りかけるような(まるでベートーヴェンその人のような)レシタティーヴォに注目した。

 また、ソプラノの小林沙羅を初めて聴けたこともよかった。じつはB→Cのリサイタルのチケットを買って、楽しみにしていたが、職場の忘年会が入ったので行けなかった。好感度抜群の人だ。
(2017.12.28.東京文化会館)
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