Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

フルシャ/都響

2017年12月17日 | 音楽
 ヤクブ・フルシャの都響首席客演指揮者の退任演奏会となるBプロ定期。先日のAプロも退任演奏会だったが、Bプロで最後になるので感慨が増す。

 1曲目はマルティヌーの交響曲第1番。マルティヌーの全6曲ある交響曲の全曲演奏が達成された。きっちりした仕事ぶりがフルシャらしい。演奏も、第1楽章冒頭の、半音でせり上がっていく音型から、いかにもマルティヌーらしい音が鳴った。以下、曲想の急激な変化が板につき、またシンコペーションによる拍節のずれも自然だ。

 ビエロフラーヴェク亡きあと、今やフルシャは、マルティヌー演奏にもっとも使命感を持つ指揮者の一人だろう。その正統的な解釈が第1番で繰り広げられた。第1番に限らず、今まで聴いた他の5曲も同様だった。わたしはマルティヌーが好きなので、全6曲のすべての演奏を聴きに行った。第4番と第6番以外は初めて聴く実演だった。貴重な経験になった。

 2曲目はブラームスの交響曲第1番。熱気があふれ、しかも正統的な造形を崩さない名演となった。フルシャと都響との間に熱いものが流れ、それが聴衆にも共有された。わたしはブラームスのこの曲が、当夜のように特別な意味を持つ演奏会にふさわしい、記念碑的な曲だとは、うかつにも気付いていなかった。

 演奏は感動的に終わった。フルシャがオーケストラを立たせようとすると、楽員たちはそれを固辞し、フルシャを称えた。フルシャがコンサートマスターの矢部達哉とハグ。オーケストラが立ち上がり、何度かカーテンコールが続く中、舞台の袖から女性が花束を持って現れた。花束はまず矢部達哉に渡され、矢部からフルシャに贈られた。再びハグする二人。最後はフルシャのソロ・カーテンコール。

 プログラムにはフルシャと都響との全演奏記録が載っていた。2008年に初共演。2010年に首席客演指揮者に就任。共演回数は合計26回。わたしはそのうち13回を聴いた。

 マルティヌー以外で記憶に残っている演奏は、ストラヴィンスキーの「春の祭典」。フルシャは確かこのとき、初めて同曲を振るということだった。それは、正確きわまりない、鮮烈な演奏だった。若い、そして本当に優秀な指揮者が、初めてなにかの曲を振るということは、こういうことかと、わたしは目を見張った。

 フルシャがキャリアを築く過程で、やむを得ない出来事もあったが、有終の美を飾れてよかったと思う。
(2017.12.16.サントリーホール)
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