Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

サティアグラハ(バーゼル歌劇場)

2017年05月13日 | 音楽
 フィリップ・グラス(1937‐)のオペラ「サティアグラハ」は、2011年のMETライブビューイングで上映されたので、ご覧になった方も多いと思う。わたしも観て感動した。今回は、バーゼル歌劇場、ベルリン・コーミシェオーパー、アントウェルペン歌劇場の共同制作。演出と振付はシディ・ラルビ・シェルカウイ。

 本作はマハトマ・ガンジーが南アフリカで過ごした前半生を描いたもの。ガンジーはロンドンで弁護士の資格を得た後、南アフリカに渡り、同地でインド人労働者が差別と不正を被っていることを知り、抵抗運動に立ち上がった。

 その前半生は「ガンジー自伝」に詳しく述べられているので、多くの方が読んでいることだろう。サティアグラハとは「真理の力」という意味で、ガンジーの抵抗運動の原理であったことが同書の中で述べられている。なお、いうまでもないが、同書は20世紀の名著の一つだ。

 本作は同書の中から印象的な場面をアットランダムに選んで構成されているが、歌詞は各場面の動きとは関係なく古代インドの叙事詩「バガヴァッド・ギーター」の言葉が歌われる。なお、冒頭場面だけは同書ではなく、「バガヴァッド・ギーター」の一場面からとられている。

 演出・振付のシェルカウイは、自ら率いるダンスカンパニーEastmanを使いながら、このような構造を持つ本作を、高いテンションと滑らかな語り口で表現した。また、「ニューキャッスルへの行進」の場面では、練り歩く男女の群れの中にムスリムMuslimという刺青をした男を含めるなど、現代社会の差別をも投影した。

 シェルカウイの演出・振付は、2016年にバイエルン国立歌劇場でラモーの「インドの優雅な国々」を観たことがあるが、それもたんにロココ的な舞台ではなく、戦争が止まない現代への問題意識を反映させたものだった。

 本作の最終場面でガンジーは床に倒れたが、それは凶弾に斃れたガンジーを連想させた。そのガンジーが再び起き上がり、真っ青な照明の中で歌う幕切れは、ガンジーの精神が今も人々の中に生きていることを感じさせた。

 指揮はジョナサン・ストックハンマー。オーケストラから澄んだハーモニーを引き出し、けっして濁ることがなく、また音楽の歩みに乱れがなかった。ガンジー役のロルフ・ロメイのナイーヴな歌声とともに、フィリップ・グラスの音楽にふさわしかった。
(2017.5.4.バーゼル歌劇場)
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