Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

クシェネクの3つのオペラ(フランクフルト歌劇場)

2017年05月14日 | 音楽
 エルンスト・クシェネク(クルシェネクともクレネクとも表記される)(1900‐1991)の3つのオペラ、「独裁者」、「ヘビー級、または国家の栄光」、「秘密の王国」は1928年にヴィースバーデンで初演された。でも、その後どこかで上演されたことがあるのだろうか。今ではほとんど忘れられた作品だ。今回はフランクフルト初演。

 3作ともクシェネクの最大のヒット作「ジョニーは演奏する」の直後の1926~27年に書かれた。プッチーニの三部作やヒンデミットの三部作の影響下に書かれたことは想像に難くない。一方、クシェネク自身が書いた台本には面喰うところがある。

 「独裁者」は悲劇的オペラと銘打たれ、文字通り独裁者が主人公(なお、本作がヒトラーのミュンヘン一揆の3年後に書かれたことは暗示的だ)。「ヘビー級、または国家の栄光」はブルレスク・オペラと銘打たれ、ボクサーが主人公の喜劇だ。「秘密の王国」はメルヘン・オペラと銘打たれ、国王が王権を捨てて森の中に逃避する話。

 3作とも(音楽もストーリーも)てんでバラバラな方向を向いている。これらを三部作と呼ぶのは気が引ける。それをどうやって一夜で上演するのだろう、というのがわたしの興味だった。そんなことが可能か‥。

 だが、演出家というのはたいしたものだ、「独裁者」の主人公(ヒトラーを彷彿とさせるメイクをしている)が、「ヘビー級、または国家の栄光」で同名の見世物を見物に出かけ(同作を劇中劇に読み替えたわけだ)、「秘密の王国」では今や国王となった独裁者が革命に怯える。国王を森の中に逃がした道化は、国王が森の中に納まったのを見て、してやったり、と満足する。

 この演出は、そうなってほしかったが、そうはならなかった現実を喚起して、歴史を風刺するとともに、現代への警告が含まれている可能性を感じさせた。演出家はダーフィット・ヘルマン。

 指揮はローター・ツァグロセク。このような‘退廃音楽’の理解と上演にかけては、現在この人の右に出る人はいないかもしれない。歌手も独裁者(国王)役のダヴィデ・ダミアーニ以下、粒が揃っていた。

 補足だが、「秘密の王国」の王妃は終始コロラトゥーラを駆使するソプラノ・パート。明らかに「魔笛」の‘夜の女王’のパロディーだ。ご丁寧に3人の娘という設定で‘3人の侍女’も出てくる。クシェネクの人を喰った個性の強さに唖然とする。
(2017.5.5.フランクフルト歌劇場)
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