Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ラザレフ/日本フィル

2015年06月07日 | 音楽
 ラザレフが指揮した日本フィルの横浜定期。ラザレフはやっぱり凄い――と、その実力を思い知らされる演奏会になった。

 1曲目はショスタコーヴィチの組曲「馬あぶ」。そんな曲があるのか、というのが正直なところだ。山野雄大氏のプログラム・ノートによると、1955年に公開された同名の映画のためにショスタコーヴィチが書いた音楽から、ショスタコーヴィチの友人のアトヴミャーンが演奏会用組曲に編纂したそうだ。

 全12曲からなる演奏時間約43分の大曲だ。大河ドラマのテーマ音楽のような雄大な曲から始まり、ロマンティックな曲あり、軽快な曲あり、また素朴な曲ありという具合。どの曲も大衆的だ。大衆の好みを裏切らない音楽。大いに楽しませてもらった。

 ショスタコーヴィチはこういう音楽を書けたのだな――と。けれども、その一方で、苦痛に満ちた、アイロニカルな音楽も書いた。大衆を喜ばせる音楽を書いていれば、快適な人生を送れたかもしれない。でも、そこに安住はできなかった。それが人の営みの尊さというものだろうかと思った。

 演奏はスケールの大きさと繊細な神経とを併せ持った名演。この曲にこのような名演で出会ったことを嬉しく思った。

 2曲目はラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」。ピアノは伊藤恵。なんとなくロマンティックに演奏するのではなく、ピアノが忙しく動き回り、オーケストラはそれにピタッと付けていく。なるほど、これはピアニストの大変なヴィルトオジティを要求する曲なのだなと思った。

 3曲目はストラヴィンスキーの組曲「火の鳥」。1945年版というところが味噌だ。いうまでもないが、ストラヴィンスキーがすっかり新古典主義の作風をきわめた時期。ラザレフもそのことを十分に意識しているのだろう。音の向こうが透けて見えるような薄い響きを作っていた。

 山野雄大氏がプレトークで話していたが、フィナーレの「最後の聖歌」では、一音一音を引き伸ばすのではなく、ガツッ、ガツッと短く切っていた。譜面の指定だそうだ。これがストラヴィンスキーのイメージだったと――。なるほど、イワンと王女の結婚を祝う鐘の音のように聴こえなくもなかった。ラザレフの演奏はそこを強調していた。

 なお、ソロ・チェロに辻本玲氏が就任した。この日が初登場。太い音を持った有望な若手のようだ。今後が楽しみ。
(2015.6.6.横浜みなとみらいホール)
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