Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ダウスゴー/都響

2015年06月01日 | 音楽
 都響のB定期でサーリアホ(1952‐)のクラリネット協奏曲が演奏された。前日のオペラ「遥かなる愛」の演奏会形式上演とあわせて、ミニ・サーリアホ・フェスティヴァルの観を呈した。こういうことは、やはり仕掛け人がいるのだろう――。そうだとすれば、ありがたいことだ。またそれに応えた関係者の皆さんにも感謝だ。

 クラリネット協奏曲は2010年の初演。サーリアホの最新作の一つといってもいい。作曲のインスピレーションの源泉は、パリのクリュニー美術館にある6枚組のタペストリー「貴婦人と一角獣」だ。

 「貴婦人と一角獣」は中世美術の名品。嬉しいことに、2013年に来日した。わたしは東京の国立新美術館で見た。想像していたよりも大きかった。威風あたりを払う気品があった。会場は比較的すいていたので、心ゆくまで堪能した。

 サーリアホの本作は、6枚のタペストリーそれぞれに由来する6つの部分から成るが、ユニークな点はクラリネット奏者が会場を動き回ることだ。最初はオフステージから音を発し、次に客席に現れ、オーケストラの後方にまわり、指揮者の前に進み、最後は客席に下りて姿を消す――という具合だ。

 いうまでもないが、クラリネット独奏イコール‘一角獣’だろう。このようなパフォーマンスを伴う曲としては、下野竜也が何年か前の読響定期で取り上げたコリリアーノの「ハーメルンの笛吹き男」を想い出す。もっとも、音楽としては、「ハーメルン……」が――民話という出自を反映して――シンプルだったのに対して、本作はもっと技巧的だ。

 プレトークでサーリアホが語ったところによると、パリでこの連作タペストリーを見たとき、「一角獣ってどういう声を出すのだろう」と思ったそうだ。これには唸ってしまった。さすがは作曲家だと――。

 その言葉どおり、独奏クラリネットは、低くこもった――唸り声のような――音から、高音のきしるような音まで、楽音と雑音を織り交ぜて吹きまくる。暗い情熱から官能の悦びまで、まさに一角獣の声のように聴こえた。

 クラリネット独奏はカリ・クリーク。本作の初演者だ。オーケストラはトーマス・ダウスゴー指揮の都響。透明感のある音。反応も鋭敏。前日の「遥かなる愛」の欲求不満が解消した。

 プログラム後半はニールセンの交響曲第3番「広がりの交響曲」。堂々たる名演。デンマーク人の誇りが感じられた。
(2015.5.29.サントリーホール)
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