Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

高橋悠治ピアノ・リサイタル

2014年02月28日 | 音楽
 高橋悠治のピアノ・リサイタル。音楽的に関連のある作曲家を2人1組にして、それを3組並べたプログラム。こういう発想は美術にはあるが――展覧会で関連のある画家の作品を隣り合わせて並べることがある――、音楽では珍しい。

 まずガルッピ(1706‐1785)のソナタイ短調作品1の3。ガルッピというと、往年の名ピアニスト、ミケランジェリが愛奏したソナタを想い出すが、それとは別の曲だった。だが、この曲も愛らしい曲だ。

 この曲との組み合せはモーツァルトのロンドイ短調KV.511。吉田秀和が好きだった曲だ。高橋悠治の演奏は、ガルッピもそうだが、雄弁ではなく訥弁――滑らかではなく、あえていえばたどたどしい感じがする――演奏。もちろん意図してのことだ。

 次はマノス・ハジダキス(1925‐1994)の「小さい白い貝殻に」。なんともロマンティックな題名が付けられた曲だ。その題名どおりの曲。歌と踊りの組み合わせの、その5組からなる曲だ。この曲を知ることができたことが最大の収穫。ハジダキスはギリシャの作曲家。映画「日曜はダメよ」の主題曲を作曲した。高橋悠治はクセナキスの演奏で共演したことがあるそうだ。

 この曲と組み合わされたのはサティの「ゴシック舞曲」と「グノシエンヌ7番」。「ゴシック舞曲」は初めて聴く曲だ。サティのなかでも変わった曲だ。実感としてはモートン・フェルドマンのようだと思ったが、見当違いだろうか。

 この曲にまつわるエピソードが興味深かった。サティは画家のシュザンヌ・ヴァラドンに恋をし、その恋の苦しみからこの曲を作曲したそうだ。ヴァラドンには奔放なところがあり、当時は眉をひそめる人もいた。その息子がモーリス・ユトリロだ(父親はわかっていない)。そのヴァラドンにサティが恋したとは知らなかった。「サティの生涯ただ一つの恋愛」(高橋悠治)だそうだ。

 ハジダキスとサティの演奏は、これはもう、高橋悠治の世界というか、まさに曲と演奏とのあいだに寸分の齟齬もないものだった。

 最後の組み合わせは高橋悠治の自作「アフロ・アジア風バッハ」とバッハの「パルティータ6番」。バッハのこの曲はさすがに大曲だ。演奏は(失礼ながら)意外に面白くなかった。冒頭のトッカータはともかく、それに続く舞曲がどれも同じように聴こえた。最後のジーグはこの曲本来の雄渾さにあと一歩で達しなかった観がある。
(2014.2.27.浜離宮朝日ホール)
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