Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

セザンヌ展

2012年05月30日 | 美術
 先週のことになるが――、かねてから行きたいと思っていたセザンヌ展にやっと行けた。

 金曜日の夜間開館。会場に着いたのは6時半だった。意外に人が多かった。セザンヌ人気の高さだろう。もうひとつは、会期末が近づいてきたせいでもあるだろう。人の肩越しにざっと見て回って、これはと思う作品には、空いたころを見計らって戻った。

 「100%セザンヌ」の謳い文句のとおり、88点すべてがセザンヌ。なんとも贅沢な展覧会だ。普通の展覧会に行って2~3点のセザンヌに惹かれる、というのとはわけがちがう。逆にこれだけ揃うと、そのなかの優劣に注意が向いてしまう。これもまた贅沢なことだ。

 飛びぬけて傑作だったのは、チラシ↑にも使われている「りんごとナプキン」(オルセー美術館)。セザンヌの静物画のなかでも傑作中の傑作だ。わたしが拙い言葉で説明するまでもないが、バランスとアンバランスの微妙な均衡、堅固な構成、色彩の調和といった点で圧倒的だ。(※)

 もっともこの展覧会で見るべきものは、このような傑作だけではなく、普段はあまり接する機会のない作品群だ。人それぞれの視点で興味をひかれる作品があると思う。わたしは、セザンヌの父が購入したシャス・ド・ブッフォンの邸宅の壁面のための「四季」の連作に惹かれた。向かって右から「秋」、「冬」、「夏」、「春」。これらはまったくセザンヌらしくない。若いころはこういう絵を描いていたのか、という驚きとともに、透明な空気感がなんとも魅力だった。

 もう一点は「庭師ヴァリエ」(テート・ギャラリー)。これは最晩年の作品。画集で見た記憶があるが、実物を見るのは初めてだ。油彩だが、水彩のように見える。美しい作品だ。絶筆なのかどうかは諸説あるそうだが、白鳥の歌という感じがする。

 せっかくの展覧会だが、文句をつけたいことがあった。第2章「風景」の壁面が濃い緑だったことだ。サント=ヴィクトワール山をはじめ風景画が並ぶこのセクションは、セザンヌの緑があふれている。ところが壁面も緑だと――しかも人工的な濃い緑だ――、セザンヌの緑を干渉する。結果、妙に落ち着かない気分になった。

 出口のところには、セザンヌのアトリエが再現されていた。木の机にのったテーブルクロスとリンゴ。わたしにはとてもセザンヌの絵のようには見えなかった。我が身の凡才に苦笑した。
(2012.5.25.国立新美術館)
(※)ここで触れた作品は、すべてホームページで見ることができます。
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