Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

サロメ

2011年02月19日 | 音楽
 3日目はドレスデンに移動した。ベルリンから電車で約2時間。去年は大雪だったが、今年は影も形もない。枯れ草が広がる茫漠とした景色を眺めながら、シューベルトの「冬の旅」を思い出した。

 ドレスデンでは「サロメ」をみた。お目当ては指揮者のトマーシュ・ネトピル。ネトピルは、都響の首席客演指揮者に就任したヤクブ・フルシャと同世代の、チェコの若手指揮者だ。今シーズンはベルリン・フィルの定期にも登場した。来年は新国立劇場の「さまよえるオランダ人」を振る予定。プロフィールによると、N響を振ったこともあるそうだ。そのときはどういう評判だったのだろう。

 オーケストラを豪快に鳴らす指揮者だ。その豪快さは持って生まれたものと感じられた。しかもスケールが大きい。音楽のスケール感こそ持って生まれた資質だ。ドレスデンの聴衆からは熱い拍手を受けていた。

 もっともこれは、どこまでがネトピルの音楽性で、どこまでがシュターツカペレの特性か、見極めは難しかった。それほどシュターツカペレはすごかった。前日にきいたベルリン・フィルがシャープな音だったのにたいして、こちらは骨太な音だ。こういう音を鳴らされると、これはちょっと日本人には出せない音だと感じてしまう。日本人とドイツ人の体力の差がそのまま出た音だ。こんなことをいうと笑われそうだが、ベルリン・フィルの場合は、日本にいて感じるほどの距離感は、実は感じなかった。シュターツカペレのほうは、手が届かないと思った。弦の底光りする音色と金管のパワー。

 サロメを歌ったのはカミッラ・ニールント。少女(サロメ)を演じても違和感がない。ヘロデを歌ったのはアンドレアス・シュミット。さすがはベテラン、全体を引っ張って行った。ニールントやシュミットが歌っていれば、これはもう一定の水準が保証されたようなものだ。ヨカナーンを歌ったのはマルクス・マルカルトMarkus Marquardt。けっしてとどろきわたる声ではないが、十分な存在感をもっていた。ヘロディアスを歌ったのはティチーナ・ヴォーンTichina Vaughn。太い立派な声だった。

 演出と舞台美術はペーター・ムスバッハ。この人の常として、舞台美術から発想された演出だ。煩瑣になるので詳述は控えるが、抽象性の高い舞台美術。男たちは全員黒いスーツ。ヨカナーンだけは薄汚れた白い作業着。サロメは白いドレス。「七つのヴェールの踊り」は、サロメがヘロデのズボンのジッパーを下ろし、馬乗りになるという演出だった。ずいぶん直截な表現だが、下手にヌードをみせられるよりも、このほうがよい。
(2011.2.11.ドレスデン歌劇場)
コメント
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