Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

旅日記:ペンテジレ―ア

2010年02月19日 | 音楽
 ドレスデンは雪。雪の舞う中を現地の人たちと同じように傘をささずに歌劇場へ。途中はまだあちこちで工事をしているが、中央駅から続く通りはだいぶ明るくきれいになった。
 歌劇場に着くと、いつものように奥のロビーのグルックとモーツァルトの石像へ。これらの像は、第2次世界大戦末期のドレスデン大空襲で歌劇場が焼け崩れたときに、人々が必死の思いで救い出したもの。グルックの像は顔がつぶれ、モーツァルトの像は黒く焦げている。当時の人々の思いはいかばかりであったろう。

 当日の演目はスイスの作曲家オトマール・シェックのオペラ「ペンテジレーア」。1927年にこの歌劇場で初演されたオペラなので、いわばご当地ものだ。今のプロダクションは2008年に初演されたもの。

 私の席は1階最前列中央だったので、ピットの中をのぞいてみた。弦はヴァイオリン8(おそらく第1ヴァイオリン4、第2ヴァイオリン4)、ヴィオラ6、チェロ8、コントラバス4。木管はフルート3、オーボエ1、クラリネット10(これにはびっくり!)、コントラファゴット1。金管はホルン4、トランペット4、トロンボーン4、チューバ1。打楽器5。ピアノ2。かなり異例の編成だ。
 オペラがはじまると、ピアノが通奏低音のような形でひじょうに効果的に出てくる。またヴァイオリンの代わりにクラリネットがある種の音の層を作り出していて、独特な音色がする(あえていえば、遠くでなにかが咆哮しているような感じだ)。

 音楽は異常にテンションが高い。その意味ではリヒャルト・シュトラウスの「エレクトラ」を連想するが、ちがう点もある。まずここにはシュトラウス節とでもいうべき一種の甘味料がない。第二にこのオペラでは、歌われる部分と語られる部分が行ったり来たりする。もちろんシュトラウスも「無口な女」などでやっているが、こちらはもっと徹底している。その結果これは音楽と演劇の混交のような感じがする。この二つをつなぐのはドイツ語の力。このオペラの主役はドイツ語だという感じがしてくる。

 原作はハインリヒ・フォン・クライストの戯曲。私は事前に読んでみたが、異様な興奮が渦巻いている。題材は古代のトロイ戦争。ギリシャ軍とトロイ軍が戦っている中へ、トロイ軍に味方して女人族のアマゾン軍が参戦してくる。その女王がペンテジレーア。ペンテジレーアとギリシャ軍のアキレスとのあいだに狂気のような愛が生まれる。

 ペンテジレーアを歌ったのはイリス・フェルミリオンIris Vermillion。強靭な声と体当たりの演技。その全身でいわば根源的な人間性を体現し、崇高でさえあった。
 指揮はゲルト・アルブレヒト。わずかな動きしかしないが、オーケストラの演奏には気合が入っている。ここぞというときに軽く腰を浮かせると、音がぐっと深まる。読売日響の常任指揮者時代に比べて少し年を召されたようだった。
 演出はギュンター・クレーマー。長くなるので、具体的な描写は控えるが、強い精神力でドラマの本質をとらえた骨太の演出。

 これで予定はすべて終わり。ホテルに戻ってバーでビールを飲んでいたら、なんだかホッとした。
(2010.2.10.ゼンパー・オーパー)
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする