Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

系図~若い人たちのための音楽詩

2009年05月12日 | 音楽
 日本フィルの横浜定期で武満徹(たけみつとおる)の「系図~若い人たちのための音楽詩」が演奏された。私は、生できくのは、はじめてかもしれない。指揮は沼尻竜典さん。

 「系図」は、ご存知のかたも多いと思うが、谷川俊太郎さんの詩に武満徹が音楽をつけたもので、詩の朗読のバックに音楽が流れる。ニューヨーク・フィルの創立150周年の委嘱作品で、1992年に作曲され、1995年に同フィルによって初演された。武満徹は翌1996年に亡くなったから、最晩年の作品ということになる。
 武満徹は晩年になるにつれて音が透明になっていったが、この作品ではその最後の時期のシンプルな音がきこえる。冒頭で鳴らされるホルンのテーマにはノスタルジックなひびきがあり、比喩的な表現で申し訳ないが、私たち大人が子供時代にみた原っぱの向こうの夕焼けのような感じがする。

 朗読される詩は、「はだか」という詩集の中の「むかしむかし」、「おじいちゃん」、「おばあちゃん」、「おとうさん」、「おかあさん」、「とおく」の6編で、いずれも子供の繊細な感性が結晶している詩だ。思いがけない場面があって痛々しく感じられるが、今後はじめてきく人のために、具体的にはふれないでおく。

 演奏は沼尻さんの耳のよさを感じさせる透明感があった。語りは蓮佛(れんぶつ)美紗子さん。蓮佛さんは今18歳とのことだが、少女のちょっとムキになったような瞬間があって、その年齢でなければ感じられない心情だと思った。

 帰宅後、詩集「はだか」を読んでみた。そこで分かったことは、詩集には23編の詩が収められていること、詩集は、お父さん、お母さん、姉、弟の4人家族の話になっていて、姉の視点の詩と弟の視点の詩があり、作曲にあたって6編の詩は姉の視点に統一されていること(一部の詩の「ぼく」という語句を「わたし」に変更)などであった。

 詩集の中に「ひとり」という詩があって、心に残ったので、その一節をご紹介します。

  わたしをいじめるあなたはにくくない
  あなたもほかのだれかにいじめられている
  そのほかのだれかもまたもっとほかのだれかに
  わたしたちはみんないじめられている
  めにみえないぶよぶよしたものに
  おとなたちがきづかずにつくっているものに

(2009.05.09.横浜みなとみらいホール)
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