Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

今年のベスト3

2008年12月24日 | 音楽
 今年もそろそろ終わりになってきた。社会ではいろいろ気の重い出来事があったが、ここでは音楽にかぎって、この一年を振り返りたい。今年も多くの演奏会やオペラに行くことができた。感謝の思いをこめて、今年のベスト3を。

 実は、今年のベストワンは、かなり早い時期に決まった。新国立劇場が日本初演したツィンマーマンのオペラ「軍人たち」だ(05.10.新国立劇場)。巨大な不協和音、跳躍する音程、騒音、ジャズ・コンボ、拡声器、その他ありとあらゆる音から、透徹した音楽の結晶があらわれた。戦後のドイツの作曲界で軋轢を生じ、孤立する中で自殺したツィンマーマンが、ドイツやオランダに引き続き、日本でも蘇ったと感じた。
 この公演は指揮者の若杉弘さんの強い意志で実現したと聞く。私は最大限の感謝をささげる。今は体調を崩されているようだが、日本の音楽界にとって大事な人、無事回復を祈る。

 あとのふたつは、外来の公演をどう扱うかで異なってくるが、私の主なフィールドは日本人の演奏家にあるので、ここではそれに絞ることにしたい。

 そこで、ひとつはアルミンクの指揮した新日本フィルによるブリテンの「戦争レクイエム」(03.09.すみだトリフォニーホール)。東京の下町を焼きつくした東京大空襲の犠牲者のための特別演奏会だ。抑制されたスタイリッシュな演奏がブリテンの音楽と共振して、隙のない造形をきかせた。曲の末尾の弔いの鐘が静かに消えていったとき、私は演奏会をきいたという以上に、戦争犠牲者の追悼の行為に参加したと感じた。

 もうひとつは札幌交響楽団が尾高忠明の指揮により演奏会形式で上演したブリテンのオペラ「ピーター・グライムズ」(09.19.札幌コンサートホール)。一部の歌手の英語の発音に不満を感じたが、演奏に参加したすべての人の真摯さがそれを上回った。ブリテンの音楽を一画一画ゆるがせにせず、ていねいに音にした努力に心からの敬意を表する。

 以上のほかに、ペーター・コンヴィチュニー演出のヴェルディのオペラ「アイーダ」があった(04.17.オーチャードホール)。室内劇のような緊密な舞台をつくりあげ、戦争の虚しさを色濃くにじませた。ときどき大規模なスペクタクルとして演出されるこのオペラの本質を問い直すもので、コンヴィチュニーの演出の中でもとくに優れたものの一つだと思う。

 番外として外来公演をあげておくと、パリ国立オペラによるデュカスのオペラ「アリアーヌと青ひげ」(07.26.オーチャードホール)と、ペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティヴァルによるロッシーニのオペラ「マホメット2世」(11.23.オーチャードホール)が、とくにインパクトが強かった。ともにヨーロッパでもめったに上演されない作品であるが、きわめて優れた演奏でその真価を明らかにし、私の視野を広げてくれた。

 思えば今年もよい年だった。
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