かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

馬場あき子の外国詠373(中欧)

2017年12月25日 | 短歌一首鑑賞
  馬場あき子の外国詠52(2012年5月実施)
       【中欧を行く ドナウ川のほとり】『世紀』(2001年刊)P100~
      参加者:I・K、崎尾廣子、鈴木良明、曽我亮子、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
      レポーター:鈴木良明
      司会と記録:鹿取未放


373 ドナウ川マルギット橋くさり橋平和橋自由橋見渡せば秋

     (レポート)
 ドナウ川に架かるブダペスト市内の橋を、上流(北側)から巡ったのであろう。古い王室の名、拘束をイメージする「くさり」、それらから解放される「平和」、「自由」。それぞれの歴史を思わせる橋を巡ってくると、ドナウ川は今、秋を装う一本の川でありながら、歴史の流れをそのまま映す川のようでもある。
 ※現在、橋は、9つ。上流(北端)の鉄道橋、南端の高速道路を除くと七つの橋が主に使用さ  れている。これを北側から順にみると、次のような並びになり、いずれも第二次大戦でドイツ  軍に破壊され、再建または復元されている。(○印は世界遺産登録)、
 ○マルギット橋―ハンガリー王の息女の名。モンゴルの襲来が二度とないよう祈りの生涯。
 ○くさり橋―「セーチェーニ鎖橋」。ハンガリー伯爵の名と鉄鎖を用い、鎖状の電飾から。
 ○エルジェーベト橋―ハンガリー王妃の名。(この橋を「平和橋」と呼んだか)
 ●自由橋―「フェレンツ・ヨージェフ橋」という名であったが、共産主義政権下で改称。
(鈴木)

      (当日発言)
★くさり橋、平和橋、自由橋は、馬場先生がそう呼ばれたのか?(藤本)
★くさり橋、自由橋は現地でこう呼ばれている。平和橋については調べたが分からなかった。しか
 しここで平和橋の代わりにエルジェーベト橋と呼んだのでは、歌が壊れてしまう。(鈴木)
★作者が勝手に平和橋とは言わないだろうが、私も調べたが分からなかった。くさり、平和、自
 由と橋の名がうまく関連して繋がっている。(鹿取)
★橋の一つ一つに歴史がある。これらの橋の歴史を知りながら旅をする先生。先生がこれらの橋
 に自分の人生を重ねているように思える。(崎尾)


     (まとめ)
 平和橋については文献には出てこなかった。マルギット橋から南に向かって順にくさり橋・エルジェーベト橋・自由橋と呼ばれている。その順番からレポーターは作者がエルジェーベト橋を平和橋と呼んだかと推定されたのだろう。レポートにもあるように自由橋の改称前の名は皇帝の名をとったフェレンツ・ヨーゼフ橋。その王妃がエルジェーベトで、改称前は夫婦の名称の橋が並んでいたことになる。
この歌の「平和橋」の名は歌作の折、くさり橋と自由橋の間にふっとすべり込んだものかもしれない。橋の名前をリズミカルに連ねているが、橋の名の意味するところはハンガリーの歴史が刻み込まれていて、重い。「見渡せば秋」の「秋」に歴史への哀惜と旅の途上のあてどない気分が滲んでいる。(鹿取)


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