渡辺松男研究36(16年3月)
【ポケットベル】『寒気氾濫』(1997年)122頁
参加者:石井彩子、泉真帆、M・S、鈴木良明、曽我亮子、船水映子、渡部慧子
レポーター:鈴木 良明
司会と記録:泉 真帆
294 職を全うできざるはわれのみならずトイレに入りて出てこぬ上司
(レポート)
仕事の進め方では、目標による管理と成果主義が導入されているのだろう。毎年の高い目標と実
際の成果との間にはギャップが生じるので、概ね「職を全うできない」状態になる。それは職員ばかりでなく、このシステムに組み込まれている上司も同様なのだ。トイレは、組織の中では他者から離れて一人に還れる場所であり、そこに逃げ込んで出てこない上司も現われる。(鈴木)
(当日発言)
★仕事を全うできないのは私だけじゃなく上司もそう。そういう人たちがトイレにいる。私だけじゃない、
という気持。(曽我)
★いつもは反発を覚える上司にも、哀れなところを見出し、すこし同情している感じですね。(M・S)
★ここに誰を持って来たとしてもそぐわなくて、「上司」だからお歌がピンポンピンポ〜ン!という感じか
しらと。鋭いお歌ですよね。(船水)
★自分よりも立場の上の上司までもが仕事を全うできない。普段そぐわないことを感じている私と同じよう
な状況なのだろう。安心感みたいな同情感も表現されているのかな。(石井)
★「トイレに入りて出てこぬ上司」なんてすごく情景がわかる。職場の深刻な状態もよくわかる。(上司
は)自分のミスをカバーできなくてトイレに行っちゃった訳じゃない。自分だけのミスじゃない。目標を
管理する成果主義が出てくると、組織としての目標になってくるから、皆が責めを負うことになる。そこ
がこの歌のポイントだと思う。従来の終身職場はそうじゃなかった。(鈴木)
★公務員でも成果主義ってあるんですか。(石井)
★あります、90年代から。公務員にとって目標はすごく立てにくい。例えば、生活保護を受けている人が
その数を減らせば成果と言えるのか、とかって難しい問題がある。就職支援しているところで、例えば専
門校なんかで入校者数が多ければ成果といえるのか、っていう問題とか。(目標は)すごく立てにくいが、
そいういうところでも立ててより良くしよう、というあたり。(鈴木)
★生活保護を少なくしたら新聞に載りますね。(石井)
★成果として載るでしょ。逆にね、増やすと成果じゃない。(鈴木)
(後日意見)
90年代以降、役所にも成果主義が導入されて大変働きにくくなってきているのは事実だろう。しかしこの歌はそういう時代背景の方に重点があるのではないだろう。上司が職を全うできなかった理由としては、個人の落ち度ではなく彼の守備範囲で目標を達成できなかった事かもしれない。背景としてそういう息苦しい成果主義が〈われ〉や上司を苦しめているのは事実だろう。しかし歌の重点はトイレに入って出てこない上司の人間的な部分と〈われ〉の同質性にあるように思う。(鹿取)
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