かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

渡辺松男の一首鑑賞 300

2016年04月21日 | 短歌一首鑑賞

 渡辺松男研究37(16年4月)
    【垂直の金】『寒気氾濫』(1997年)124頁
     参加者:石井彩子、泉真帆、M・S、鈴木良明、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:泉 真帆
     司会と記録:鹿取 未放

300 秋桜の逆光の路へ行くひとよまぶしき路はにんげんを消す

      (レポート)
(解釈)秋桜の背後から逆光線がさしている。その光の海に向かう一本の路があり、逆光はその路をもまぶしく照らしている。この路を進んで行っているにんげんは、進むにつれだんだんと、逆光のなかに入ってゆく。しまいにはこの「まぶしき路」は「にんげん」を消した。
(鑑賞)「逆光の路へ行く」の構図の表現に注目した。まず読者の目に、秋桜の背後から照らす逆光線を見せる。このとき発句でイメージした秋桜の花々は、陽光の海原に覆われて消える。次いで、そこへ向っている一本の路をみせ、最後に路を歩いて行く人を光の中に消すという、映画のシーンのような技巧に驚く。また、この作者の歌に、光の集まる場所を霊の集まる場所としてとらえる歌があったが、この一首はむしろ、この「まぶしさ」の答えをここでは出さず、なんだろう?と、読者の関心を喚起する、連作の始まりの一首になっているのではないだろうか。(真帆)


      (当日発言)
★最初「ひと」と呼び、後で「にんげん」と置き換えています。異空間に入っていくようなイメー
 ジですね。人間は消えてしまったのですけれど、それは可視光線では見えない。(石井)
★人間の存在って光と影があってそれが出てくる。光だけになっちゃったので存在感が消されてし
 まった。(鈴木)
★秋桜って逆光でなくてもはかない感じの花で、それを歌い出しに持ってこられたところがお上手
 だなと思いました。(慧子)
★人間が秋桜の中に紛れていっちゃうという感じがします。(M・S)
★秋桜って何か宇宙のコスモスに通じるような気がするのですが。(石井)
★私ははじめ宇宙のコスモスとかカオスという言葉も連想しましたが、漢字だからやはり逆光の中
 に咲く秋桜として解釈しました。(真帆)
★秋桜って聞くと秋の澄んだ空とその空気感を感覚的に思いますよね。人間も秋桜も映像化してお
 いて消してしまう、見せ消(け)ちの手法ですね。(鹿取)
★後の方の歌を読んでいくと、このひかりはただごとならぬひかりなんだろうなって思います。そ
 れ以上は曲解する気がして鑑賞はそこでとめましたが。まぶしき道って何か正しい道のような気
 がしたんですね。正と負があるとしたら「正」のような。われこそは正しい道を歩いていると言
 っているような人は人間らしさとか個性を消しているよと言っているような。しかし松男さんの
 歌ってそんなふうに読んじゃいけないなと思い直しました。(真帆)
★真帆さんが今言ったようなことは、私も前回レポートしてそれを感じたんですよ。正しいとかそ
 ういうことではなくて、まぶしい光のなかでというのは、この世の中で光り輝いている人たちっ
 ていますよね、善悪ではなくて。そういう人たちって人間らしくないのではないかと。人間って
 光と影と両方持っていて人間なんじゃないかと。それを一方だけ取りだして光だけになると人間
 って消えちゃうよと、そういうことも言っているんじゃないかと。しかし、秋桜とは何を意味す
 るのかとか、そんなことは松男さんはしないと思いますよ。本邦雄なら何かを象徴させるって
 するかもしれないけど。(鈴木)
★前の章の職場のリアルな歌の続きとして読むと、眩しいを正しいとは思いませんが、不如意な思
 いをして生きている人を応援している気分かなと。でも、深読みはしない方がいい。(石井)
★秋桜って種がばーと散っていって別のところで群れて咲きますね。だから群れている人々のこと
 かともとれます。(真帆)
★いろんな読み方があっていいのでしょうが、私は「まぶしい」とか「ひかり」というものをそう
 いう社会的な観点から読まない方がいいと思います。この歌、両側に秋桜が群生している一本の
 路を人が歩いている、道の向こうにおそらく沈もうとする陽があって非常にまぶしいので、人間
 の姿がよく見えなくなる。そういう現象は別に不思議なことではなくて、日常ふつうに経験する
 ことですよね。でも、こう表現されると何か存在の奥深いものを暗示されているような気がする。
 その辺りをレポーターは「『まぶしさ』の答えをここでは出さず」というように書いていらっし
 ゃるのだと思います。「光の集まる場所を霊の集まる場所としてとらえる歌があった」とレポー
 トにあるのは、私がとても気になっている「まぶしさの中にかがやくまぶしさ」の歌がある「非
 常口」の一連だったと思うのですが。「まぶしい」とか「ひかり」というのが松男さんの心を深
 いところというか異次元に誘う特別のものなんだろうと思います。(鹿取)

   ひとつ死のあるたび遠き一本の雪原の樹にあつまるひかり  
   非常口からわれ逃げしときまぶしさのなかにかがやくまぶしさのあり  2首とも78頁(非常口)



最新の画像もっと見る

コメントを投稿