馬場あき子の外国詠8(2008年5月)
【西班牙 Ⅰモスクワ空港へ】『青い夜のことば』(1999年刊)P51
参加者:N・I、M・S、H・S、T・S、藤本満須子、T・H、
渡部慧子、鹿取未放
レポーター:H・S
まとめ:鹿取未放
◆ものを書くことや鑑賞に不慣れな会員がレポーターをつとめています。不備が多々ありますが
ご容赦ください。
72 モスクワ空港彼方の疎林に雪降るころ降りたしツルゲーネフを恋びととして
(レポート抄)
ツルゲーネフの著した「猟人日記」は皇帝に農奴解放を決意させたといわれる。モスクワ空港にある作者の思いはどこにあるのであろうか。政府の弾圧にもかかわらず言論活動を展開した人々にか、貴族へか、農奴へか。ロシアの地を細やかに詠っている。情趣豊かな社会心理小説を書いたとあるツルゲーネフの名から、農奴制崩壊期を歩んだ人々の道のりが鮮やかに立ち上がってくる。風土もまた人を育むのであろう。この一首もまた情趣豊かな歌として印象深い。(H・S)
(当日発言)
★深い思いを分かり合える人と語り合いたいという歌。ここに作者の精神的な飢えがある。
(N・I)
(まとめ)
ツルゲーネフは19世紀ロシアの小説家。貴族であるが農奴制を批判した「猟人日記」を書いて逮捕・投獄されたりもしている。隣家に越してきた少女を恋する少年が、自分の父親とその少女が恋しあっていることを知るという詩情豊かな「初恋」などの作品もある。なお、ツルゲーネフは、夫と子のあるフランスのオペラ歌手に一目惚れ、彼女を追ってパリに行き、生涯ロシアと西欧を往復して暮らしたそうだ。
作者はかつてツルゲーネフに心酔したのであろう。「疎林に雪降るころ」はたっぷりとした情感をたたえた表現だが、えがかれた小説の情景をも連想させる。この空港の彼方にはツルゲーネフが描いた小説の舞台のような情景が広がっているかもしれないと思った時、降り立ってみたいという思いがふっとかすめたのだろう。(鹿取)