「クリームソーダ、」
「なに?」
「クリームソーダを飲みたい」
僕の隣に座る彼が言う。
不規則なリズムで揺れる電車内。学校からの下校途中で、乗客はそれほど多くない。
明るく穏やかな午後とは言っても、あと1時間もすれば濃い闇迫る夕暮れ。
今はまだのんびりとした秋の空に薄雲が滲んでいる。
今日は何だか春みたいに暖かい。
彼がクリームソーダを飲みたいと言う気持ちも、分からなくはない。
「次の駅で降りよう」
「あぁ、あそこにならメニューにあるはずだ」
間もなく電車が駅に着いた。
目指す場所は僕等の行きつけの喫茶店。
手ごろな値段で美味しい飲み物やお菓子を食べられる上に、お洒落で綺麗な喫茶店だ。
改札を出て、すぐ右に曲がる。いくつか店が立ち並んだ先にある小さな路地を行く。
そこに喫茶店はある。
こげ茶の扉を手前に引くと、扉に下がっているカウベルが鳴る。
僕等は空いている席に適当に腰掛けて、メニューを開いた。
「あった、マスター」
彼はすばやくマスターを呼んだ。マスターはいつも真っ白いシャツと真っ黒い腰巻エプロン姿。
「久しぶりだね、ご注文は」
「僕はクリームソーダと、この南瓜パイ」
君は?と彼に聞かれるまで僕は自分が何を注文するか決めていなかった。
「えっと、じゃあ僕も同じので」
あれこれ迷うよりも、彼と同じものを食べたい衝動に駆られた。
マスターは厨房に入って行った。
「ところで、どうしてクリームソーダなの」
「だって、ほら」
彼は窓に視線を移す。隣にあるビルのせいで窓から見える空は狭かった。
「今日の空はクリームソーダみたいじゃないか、甘そうで冷たそうで…」
時々、彼は夢みたいな話をする。最初は変な奴だなと思っていたけれど、今ではとても面白い考えを持っている僕の大切な友達だ。
「お待たせしました」
マスターが運んできたクリームソーダと南瓜パイ。
うっすらと青く色づいているソーダに浮かぶ、マスター特製のバニラアイス。
南瓜パイはオレンジ色。シナモンの香りがする。
「もう収穫祭だね」
「明日明後日からは露店が並ぶだろうな、一緒に行こうよ」
冷たいソーダと甘いクリームと温かい南瓜の味に、早くも僕はお祭り気分。
だから彼の意見を反対する理由なんてどこにもない。
「じゃあさ、露店が並ぶ所から見ていようか」
「珍しいね、君からその言葉を聞くなんて思っていなかった」
「たまには良いかなって、どうする」
僕はストローでソーダをかき混ぜる。アイスがどんどん溶けていく。
彼の言う事はあながち夢ばかりではない。
確かに今日の空はこんな色をしているのだ。
「そしたら、朝の9時にいつもの場所」
「決まりだね」
明日は金曜日。僕等だけの3連休。
露店は今年もたくさん並ぶだろう。ハーブクッキーを売る露店は毎年長い行列を作るから、今年は先頭に並んで待ってみたい。一番乗りで買ってみたい。
他にも色んなものが集まってくる。慎重に良い物だけを選ぶ作業が楽しい。
あれこれ迷いながら、彼と同じ視点で物を見てみたい衝動に駆られた。
ソーダを飲む彼と南瓜パイを頬張る僕。
何故だか分からないけれど、もう少し子どもでいたいなって思った。
「なに?」
「クリームソーダを飲みたい」
僕の隣に座る彼が言う。
不規則なリズムで揺れる電車内。学校からの下校途中で、乗客はそれほど多くない。
明るく穏やかな午後とは言っても、あと1時間もすれば濃い闇迫る夕暮れ。
今はまだのんびりとした秋の空に薄雲が滲んでいる。
今日は何だか春みたいに暖かい。
彼がクリームソーダを飲みたいと言う気持ちも、分からなくはない。
「次の駅で降りよう」
「あぁ、あそこにならメニューにあるはずだ」
間もなく電車が駅に着いた。
目指す場所は僕等の行きつけの喫茶店。
手ごろな値段で美味しい飲み物やお菓子を食べられる上に、お洒落で綺麗な喫茶店だ。
改札を出て、すぐ右に曲がる。いくつか店が立ち並んだ先にある小さな路地を行く。
そこに喫茶店はある。
こげ茶の扉を手前に引くと、扉に下がっているカウベルが鳴る。
僕等は空いている席に適当に腰掛けて、メニューを開いた。
「あった、マスター」
彼はすばやくマスターを呼んだ。マスターはいつも真っ白いシャツと真っ黒い腰巻エプロン姿。
「久しぶりだね、ご注文は」
「僕はクリームソーダと、この南瓜パイ」
君は?と彼に聞かれるまで僕は自分が何を注文するか決めていなかった。
「えっと、じゃあ僕も同じので」
あれこれ迷うよりも、彼と同じものを食べたい衝動に駆られた。
マスターは厨房に入って行った。
「ところで、どうしてクリームソーダなの」
「だって、ほら」
彼は窓に視線を移す。隣にあるビルのせいで窓から見える空は狭かった。
「今日の空はクリームソーダみたいじゃないか、甘そうで冷たそうで…」
時々、彼は夢みたいな話をする。最初は変な奴だなと思っていたけれど、今ではとても面白い考えを持っている僕の大切な友達だ。
「お待たせしました」
マスターが運んできたクリームソーダと南瓜パイ。
うっすらと青く色づいているソーダに浮かぶ、マスター特製のバニラアイス。
南瓜パイはオレンジ色。シナモンの香りがする。
「もう収穫祭だね」
「明日明後日からは露店が並ぶだろうな、一緒に行こうよ」
冷たいソーダと甘いクリームと温かい南瓜の味に、早くも僕はお祭り気分。
だから彼の意見を反対する理由なんてどこにもない。
「じゃあさ、露店が並ぶ所から見ていようか」
「珍しいね、君からその言葉を聞くなんて思っていなかった」
「たまには良いかなって、どうする」
僕はストローでソーダをかき混ぜる。アイスがどんどん溶けていく。
彼の言う事はあながち夢ばかりではない。
確かに今日の空はこんな色をしているのだ。
「そしたら、朝の9時にいつもの場所」
「決まりだね」
明日は金曜日。僕等だけの3連休。
露店は今年もたくさん並ぶだろう。ハーブクッキーを売る露店は毎年長い行列を作るから、今年は先頭に並んで待ってみたい。一番乗りで買ってみたい。
他にも色んなものが集まってくる。慎重に良い物だけを選ぶ作業が楽しい。
あれこれ迷いながら、彼と同じ視点で物を見てみたい衝動に駆られた。
ソーダを飲む彼と南瓜パイを頬張る僕。
何故だか分からないけれど、もう少し子どもでいたいなって思った。