citron voice

詩人・そらしといろのブログ~お仕事のお知らせから二次創作&BL詩歌まで~

赤の風景

2006-08-29 19:32:17 | つくりばなし
立ち枯れした向日葵と、真っ赤な夕焼けのコントラスト。
真綿を伸ばしたように雲がたなびき、沈む陽がじわりと染みていた。
若い蕾をつけたコスモスの群れは、細い葉が赤い風にそよいでいた。
砂利道には夕べ降った雨の名残、水溜りすら忘れられた氷イチゴみたいだ。

夕焼けの向こうから、少年が歩いてくる。
虫取り網を握り、虫かごを揺らして満足そうな様子だ。
突然、少年が倒れた。砂利に滑ったらしい。

その拍子に、スッと空を切る赤蜻蛉。

少年は立ち上がった。土埃をはらい、泣くのをこらえている。
投げ出された虫取り網と、壊れた虫かごのコントラスト。
空っぽの両方を拾い、また歩き出す。
左足を引きずっていた。膝は熟れた柘榴色だった。

少年とすれ違った。
痛みをこらえているのか、取り逃がした赤蜻蛉を悔やんでいるのかは分からない。
くぐもった嗚咽が聞こえた。麦藁帽子が寂しく揺れている。

夕焼け、蜻蛉、熱い血潮。
染まる赤は生きている色だ。
温かく、時に痛み、感覚を与えてくれる生きている色だ。

遠くで踏切が鳴る。夕陽が沈む音に聞こえた。




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