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思索 電子回路 論評等 byホロン commux@mail.goo.ne.jp

スカイフックダンパ

2009-11-20 15:31:59 | 電子回路
「運動方程式への応用③ラプラス」

スカイフックダンパ
(アクティブダンパ)

前記事「運動方程式への応用②」では、バネ-質量系の周波数特性(振動絶縁性能)は、減衰比ζ=C/2√(MK)の作用によって大きく変化することが確認できました。ζが小さければ高周波での振動絶縁性能は優れているけれども、固有振動数(ω0)では振動絶縁どころか、入力振動(床振動)を10倍近く増幅してしまいます。反対にζが大きければ固有振動数での増幅は小さくなりますが、高周波での振動絶縁性能は低下します。つまり、「あちらを立てればこちらが立たず」という関係で、実際にζの値を決めるときには妥協点を選ぶしかありません。

(ただし、入力振動[床振動]にも周波数成分がありますから、もし5Hz~100Hz以外の周波数成分は無視量ということであれば、バネ-質量系の固有振動数を2Hzくらいにして、ζを可能な限り小さくすれば良いわけです。)

さて、本当に欲しいのは、「あちらも立つしこちらも立つ」という都合のいい仕組みですね。つまり、固有振動数の増幅など無く、すべての周波数帯域で振動絶縁できる構造はないか?

実は、既に図で示していますが、その方法があるのです。そもそも、ζを大きくすると高い周波数での振動絶縁性能が落ちるのは、ダンパが質量と地面との間に取付けられているために

運動方程式 M x''(t)=-C {x'(t)-x'0(t)}-K{ x(t)-x0(t)} ----- ④
に見るように

Cがx'(t)-x'0(t) の差分にかかっているため、床振動x'0(t) に対しても力を発生するからです。ならば話は簡単で、図のようにダンパの床の支持点を切り離して、空中の絶対静止点を支持点にすればよいのです。これをスカイフックダンパといい、ここではCaで表します。

では、スカイフックダンパを用いた「バネ-質量系」の運動方程式を見てみましょう。

M x''(t)=-Ca x'(t)-K{ x(t)-x0(t)} ----- ⑧ これが運動方程式です
M x''(t)+Ca x'(t)+K x(t) = K x0(t)

C x'0(t) が消えただけですから、ラプラス変換して伝達関数の形にすると
X / X0=K/M / ( s^2+sC/M+K/M) ----- ⑨

前例にならい、式⑨を次のように変形します。
X / X0={√(K/M)}^2 / [ s^2+sC/{2√(MK)}{ 2√(K/M) }+{√(K/M)}^2]
X / X0=ω0^2 / (s^2+2ζω0 s+ω0^2 )  ----- ⑩

Cc=2√(MK)  臨海減衰係数
ζ=Ca/Cc    減衰比
ω0=√(K/M)  固有振動数(rad/sec)
ω0 / 2π    固有振動数(Hz)

sにjωを代入して「フーリエ変換」にします。
X / X0=ω0^2 / (jω)^2+j2ζω0 ω+ω0^2 )

分母の複素数の絶対値は
[(ω0^2-ω^2)+j2ζω0 ω]=√{(ω0^2-ω^2)^2+(2ζω0 ω)^2}

よって、式⑩の絶対値は
[X / X0 ]=ω0^2 / √{(ω0^2-ω^2)^2+(2ζω0 ω)^2} となります。

図のグラフは「スカイフックダンパ」の伝達関数(周波数特性)です。

ζを大きくすることにより共振周波数の山はつぶれ、高い周波数の振動絶縁性能も劣化しません。また理屈上、ζはいくらでも大きくすることができます。このように、スカイフックダンパは夢のような減衰器なのです。ただ値段を聞くと目ん玉が飛び出しますね。自動車では、一部の高級車に取り付けられていたことがあるようです。

関連記事:
「アクティブダンパ(アクティブサスペンション)」2009-11-22
「運動方程式への応用②」2009-11-19
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